鈴木啓太さん 元サッカー日本代表が築いた「セカンドキャリア」

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鈴木啓太さん(40歳/元浦和レッズMF)

 引退後、どのような道を歩むのか? アスリートなら誰もが直面する大きな課題だ。元浦和レッズのMFで3シーズン主将を務め、日本代表に選出された鈴木啓太さんはバイオベンチャーの起業を選んだ。2015年に引退して6年。“今”を追った。

■引退後アスリートの知人、友人に頼んで回った「ウンチちょうだい」

「ウンチちょうだい」

 初めて、アスリート仲間に依頼した日のことは今も忘れない。16年1月。相手は19年のラグビーW杯で日本代表として大活躍し、今はフランス国内1部リーグトップ14のASMクレルモン・オーヴェルニュに所属する友人の松島幸太朗選手だ。

 鈴木啓太さんの現在の肩書は、東京・銀座に本社を置く「AuB(オーブ)株式会社」代表取締役。同社は、アスリートの腸内環境研究をベースに、腸活サプリや健康管理に役立てるコンディショニングサポート事業を行っている。

「引退前の15年10月に立ち上げ、まず最初に取り組んだのが、アスリートの知人・友人のウンチを集めることでした。健康な体を維持するには腸内環境を整えるのがとても大切なんですが、それには腸管内に存在する常在細菌(腸内細菌)を徹底的に分析する必要があります。超一流選手であれば、その特徴がより顕著ではないか? と考え、彼に依頼したわけです」

 当然、ハトが豆鉄砲を食らったような表情をしたが、「将来、アスリートのためになるから」と説得。その後、箱根駅伝で「3代目山の神」と呼ばれた神野大地選手、プロ野球ヤクルト嶋基宏選手らの協力を得た。

 昨年も、元サッカー日本代表の沢登正朗氏が監督を務める常葉大(静岡)男子サッカー部の選手20人から受け取った検体を研究に生かしている。

 集めた便の総数は750人、1700検体を超えた。

「大学や企業のバイオ関連部門などとの共同研究で、腸内細菌の多様性が高いと体のコンディションが良くなることがわかり、同時に免疫力の観点で今注目の酪酸菌の摂取も必要なことが明らかになりました。そして起業から4年かけて発売したサプリが『AuB BASE』(90粒入り、送料別・税込み6578円)です」

 このサプリは同社ECサイトで販売しているほか、浦和レッズアカデミーの強化を目的として浦和レッズとパートナー契約を結び、レッズ特設サイトから購入すると売り上げの10%をアカデミーの強化費などに充てることが決まっている。

母の影響で物心ついたころから“腸活”

 鈴木さんの腸活の原点は、調理師の資格を持つ母の食育にある。

「物心ついたころから、食卓にお手製のぬか漬けとか発酵食品が並んでいました。納豆はオヤツ代わり。そして毎食後、温かいお茶を飲むのが普段の生活の一コマでした」

 実家は静岡市。自動車などのバッテリーを販売する会社を経営しており、母は家業を手伝いながら家族の健康を台所から守った。

「『人は腸が一番大事』というのが口癖で、いつも健康を第一にしていました。それで無意識のうちに、僕も冷たいものはなるべく控え、寝るときは腹巻きをするなど、お腹を大事にするようになったんです」

 痛感したのがプロ5年目の04年3月。

 UAE(アラブ首長国連邦)アブダビで迎えたアテネ五輪の最終予選・UAEラウンドのアウェー戦だった。

「水か食事かわかりませんが、選手23人中18人が下痢に見舞われる最悪の状態でした。試合中、トイレとベンチを往復している選手もいたくらい。僕ですか? 毎日の腸活のおかげで、もちろん平気でした」

 本ラウンドは2勝1分けで日本代表は凱旋帰国。その後の日本ラウンドで勝ち上がり五輪の切符を獲得したが、その陰にはこんなエピソードがあったのだ。

 最後に、来年11月開催の「FIFAワールドカップカタール2022」に向け、日本代表チームの課題を尋ねた。

「個々のレベルアップが第一でしょうね。東京五輪でメダルに届かなかったのはどうしてか? そこに向き合い、選手それぞれがどのように改善していけるかに尽きると思います」

 将来的にはクラブチームの運営に携わりたいと思っている。夢に終わらせず、着実に実現させていくのが鈴木流だ。

(取材・文=高鍬真之)

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