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六川亨サッカージャーナリスト

1957年、東京都板橋区出まれ。法政大卒。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年にサカダイを離れ、CALCIO2002の編集長を兼務しながら浦和レッズマガジンなど数誌を創刊。W杯、EURO、南米選手権、五輪などを精力的に取材。10年3月にフリーのサッカージャーナリストに。携帯サイト「超ワールドサッカー」でメルマガやコラムを長年執筆。主な著書に「Jリーグ・レジェンド」シリーズ、「Jリーグ・スーパーゴールズ」、「サッカー戦術ルネッサンス」、「ストライカー特別講座」(東邦出版)など。

J1最多191ゴール・大久保嘉人の現役引退で釜本氏の珠玉エピソードを思い出した

公開日: 更新日:

 セレッソ大阪所属の元日本代表FW大久保嘉人(39)が11月22日、大阪市内で記者会見を開いて今シーズン限りでの引退を表明した。

 大久保は長崎・国見高時代にインターハイと高校選手権、国体の3冠を達成。川崎フロンターレ時代の2013~2015年には、3年連続の得点王という偉業を達成した。プロ生活をC大阪でスタートさせ、トータル20年間でJ1リーグで191ゴール(475試合出場。J2で18ゴール・48試合出場)を決めている。

 ボール保持者と常に対角線の位置にポジションを取るのが特徴だった。GK、ゴールの枠、ボール保持者を同一視野に捉え、素早い動き出しでマーカーを外してゴールを量産してきた。川崎F時代は、無回転のミドルシュートも得意としていた。ペナルティエリアから離れたところにいるから、と油断すると痛い目に遭ったチームも多かった。

 もっとも、2020年は苦しいシーズンだった。

 J2の東京ヴェルディに移籍して19試合に出場したが、PK失敗などもあってプロ生活で初のノーゴールに終わった。

 ところが、今シーズンから古巣のC大阪に復帰すると開幕から5試合で5ゴールの荒稼ぎ。J1通算得点を190点の大台に乗せ、200ゴールも不可能ではない、と期待を抱かせた。

■YOSHI METERの更新ならず

 しかし、その後は途中出場してもシュートチャンスに恵まれず、9月8日の札幌戦で1ゴールを記録したが、それ以上「YOSHI(ヨシ) METER(メーター)」を更新することなく、今回の現役引退表明となった。

 それでも、J1通算得点は歴代1位として燦然と輝いている(2位は佐藤寿人の161ゴール)。

釜本邦茂氏とのPK談義

 この<歴代通算得点>と言えばーー。

 やはり不世出のストライカー釜本邦茂氏を抜きには語れないだろう。

 釜本氏は、JSL(日本サッカーリーグ)1部時代のヤンマー(現C大阪)で1967年から1984年の18年間で251試合に出場して202ゴールを記録した(1984年はプレーイングマネジャーのために出場はなく、天皇杯は日産・現横浜Mとの決勝戦など3試合に出場)。得点王は、1974~76年の3年連続を含めて7回獲得。アシスト王も3回獲得している。75年には得点王とアシスト王のダブル受賞も果たした。

 その釜本氏と日本サッカー協会の100周年記念行事に出席した際、大久保は「J1通算200得点を達成できるのだろうか?」という話題になった。 

 釜本さんは、まず自身の202ゴールを振り返りながら「PKを蹴っとったら、もっと(通算得点は)上に行っとったな」とサラリと述懐した。

 釜本氏は、チームがPKを獲得しても、後輩FWの今村博治(1971年~1983年にかけてヤンマーで活躍した右ウイング。元日本代表)にキッカーを譲っていたという。

 大久保は「PKはめちゃくちゃ緊張するので嫌い」と言っていたが、釜本氏は別の理由でキッカーを譲ることになった。その理由は「相手のGKが可哀想やから」と言うものだった。釜本氏にしてみたら「止まっているボールを1対1でズバッと決めてもやるせない」。なので「自分では蹴らなかった」ということなのだろう。

 釜本氏と会話を交わしながら、珠玉のエピソードを思い出した。

 1967年11月19日に和歌山で日本サッカーリーグの試合が行われた。ヤンマーと日立(現柏レイソル)との一戦での出来事だった。

 日立のGK片伯部延弘氏が、試合中に釜本氏と衝突して負傷退場してしまい、交代枠を使い切っていた日立はFW海野勇をGKに起用した。慣れないGKが登場してから7分が経過した。

■GKの右手の平が裂傷

 釜本氏が強烈シュートを見舞い、セーブしようとした海野氏は右手の平に裂傷を負い、負傷退場を余儀なくされたのだ。至近距離から放たれる釜本氏のシュートが、いかに破壊力があったか。そのことを如実に物語るエピソードである。

 釜本氏と早稲田大の同期で1966年には天皇杯優勝を経験し、卒業後は東洋工業(現サンフレッチェ広島)の黄金時代を築いた元日本代表DFの大野毅氏と最近、同じピッチでシニアのサッカーを楽しむ機会を得ている。

 大野氏によると「釜本は代表合宿などがあるのでほとんど早稲田大の練習に来ませんでした。それでも時たま来ると右45度からのシュートをバンバン決める。そして試合でも同じようにシュートを決めていました。大腿や尻や腰回りの筋肉は、大学時代から日本人離れしていましたし、彼にロングパスを出せば胸トラップから反転してシュートを決めてくれる。当時の早稲田大は〈戦術は釜本〉でしたね」と笑いながら振り返ってくれた。

 日本代表でも、釜本氏は国際Aマッチに76試合出場して75ゴール。これは、なでしこジャパンの世界女王の立て役者・澤穂希氏によって破られたものの、男子代表では依然としてダントツトップの記録である。

 1968年メキシコ五輪で得点王獲得という金字塔を打ち立て、それから誰一人として同タイトルを獲得していない。

 世界トップレベルの偉大なストライカーである釜本氏にリーグ通算得点で迫った大久保も、いかにケタ外れのストライカーであるか。

 このことに異論を挟む人はいないだろう。

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