六川亨
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六川亨サッカージャーナリスト

1957年、東京都板橋区出まれ。法政大卒。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年にサカダイを離れ、CALCIO2002の編集長を兼務しながら浦和レッズマガジンなど数誌を創刊。W杯、EURO、南米選手権、五輪などを精力的に取材。10年3月にフリーのサッカージャーナリストに。携帯サイト「超ワールドサッカー」でメルマガやコラムを長年執筆。主な著書に「Jリーグ・レジェンド」シリーズ、「Jリーグ・スーパーゴールズ」、「サッカー戦術ルネッサンス」、「ストライカー特別講座」(東邦出版)など。

「ミクシィ東京」と「コミュニティー」の親和性について考えてみた

公開日: 更新日:

 J1リーグ最多の20個のタイトル保持者である鹿島が、フリーマーケットアプリの大手「メルカリ」の完全子会社になったのは、2019年7月のことだった。「オリジナル10」の一員であり、常勝軍団の鹿島が身売りしたことは、サッカー界にとって衝撃的だった。

 しかもコロナ前の出来事であり、経営的に優等生だった鹿島が、なぜ〈身売り〉しなければならなかったのか。

 ひと言でいうなら「時代の変化に対応するため」ということになるだろうし、鹿島は「よく決断した」と言えるだろう。

 JSL(日本サッカーリーグ)時代は、鹿島の親会社である住友金属、同業他社の日本鋼管、新日本製鐵(旧八幡製鐵)といった基幹産業が、日本の経済界を支えていた。

 しかし、時代は移り変わり、こうした重厚長大系の企業は、衰退の一途を辿ることで吸収合併を繰り返さざるを得なかった。

 彼らの顧客は、住金ならマツダといった具合に企業同士のBtoBであり、消費者と直接向き合う必要はない。このためプロチームを持つ意味(広告・宣伝媒体として)は、ほとんどなかった。似たような例としては〈丸の内御三家〉と言われた古河電工にも当てはまる。

 ケーブルや電線を企業に売っていたため、鉄鋼メーカー同様にBtoBである。そこでプロ化を迎えるに当たり、古河はJR東日本と組んだ。

 それが正解だったのかどうか、今もって答えは出ていない。

住金も長引く鉄鋼不況から…

 例外だったのは住金である。過疎化に悩む地元鹿島の活性化、そして地域住民が誇りを持てるシンボルとして鹿島アントラーズの創設に尽力した。 

 が、長引く鉄鋼不況から吸収合併を繰り返した結果、住金という企業名は消え、日本製鉄として生まれ変わった。さしもの鹿島も、経営権を譲渡しなければならなくなったのは、時代の流れだったかもしれない。

 さてFC東京である。 

 12月10日の午前10時から始まった臨時株主総会で、IT大手の「ミクシィ」が、新株23000株を11億5000万円で購入して経営権を獲得すると、午後にはJFAハウスで記者会見を開いた。

 もともとミクシィは、2018年から東京ガス、清水建設、三菱商事、三井物産といったクラブをスポンサードする中核企業7社のうちの1社だった。 

 現在ユニホームの胸に入っている「XFLAG」は同社のゲーム部門の会社名だ。モンスターストライクは、大ヒットしたゲームである。

 東京ガスがチームの経営権を譲渡したのは、2年連続してコロナ禍によって観客動員減などに見舞われ、収益の落ち込んだことが原因だ。

 来シーズン以降も、中長期的な見通しが立たないことから、2022年5月には、Vリーグ所属のバレーボールチームも活動を休止する。

 東京ガスも、鉄鋼業と同様にBtoBの企業であり、消費者と直接ふれ合う機会は、ほとんどないと言っていいだろう。ガスも電気も<目に見えるものを直接、消費者と売買>するものではないからだ。

 それでもチームの維持に努めてきたのは、前身の東京瓦斯サッカー部が1935年創部と長い歴史があるからだろう。

追求したいのは「コミュニケーション」

 そんなFC東京の新社長には、45歳の川岸滋也氏(ミクシィ ライブエクスペリエンス事業本部 スポーツ事業部 事業部長)が、2022年2月1日に就任する。

 同氏はNTTドコモやリクルートホールディングスなどでキャリアを重ね、2020年にミクシィに再入社し、サッカー関連のスポーツ事業に従事してきた。

 しかしながら、JFAハウスでの記者会見で興味深かったのは、ミクシィ代表取締役の木村弘毅氏のコメントだった。

 同氏は開口一番「(ミクシィが)追求しているのはコミュケーションです。ゲームを通じてワイワイやる。より多くの人のコミュニケーションの場を上げていきたい。ファンやサポーターの熱気をスタジアムで経験し、ゴールに一喜一憂するコミュニケーションの場。(子会社の英国風パブHubでも)スポーツビューイングを全国で見られるようにしたいし、近所のお店に仲間が集まれる空間を提供したい」と豊富を語ったのである。

この木村社長の言葉を聞き、脳裏に鮮やかに蘇ったものがる。

 フジタ(現湘南)や日産(現横浜FM)で活躍したアデマール・マリーニョさんと一緒にフットサルをやった時のこと。 マリーニョさんはブラジルでの少年時代、毎週水曜の夜は近所の人たちと大人も子供も関係なく体育館でフットサルをやり、その後はご飯を食べながらサッカー談義に花を咲かせたという。

 今から25年ほど前の話だが、羨ましいと感じないではいられなかった。

 1993年に華々しく開幕したJリーグ。当時「サッカーは文化である」と何かと喧伝されたものだが、一体全体、何が「文化」なのか、明確に説明できるメディアは少なかった。

 そこで筆者は、著名なドイツ人記者のマーティン・ヘーゲレ氏に質問したところ「コミュニティだよ」と教えてくれた。 

 コミュニティとは、市町村などの地域社会でサッカーを通して、共通の話題と目的で連帯感を強めていき、趣味や余暇の時間を豊かなものにする──といったところだろうか。

そして、そのために必要なのが、自己表現の手段としてのコミュニケーションであり、それは今回のコミュニティと同義語と言っていいだろう。

 ミクシィの木村社長がサッカーに造詣が深いかどうか、残念ながら確かめるチャンスはなかったが、いずれにしても、酒場でサッカーの試合を観戦しながら友人たちとワイワイ騒いだり、スマホでSNSやゲームなどで交流したりする際、コミュニケーションは必要不可欠である。 

 このたびの<ミクシィ東京>の発足でゲームとサッカーには「親和性がある」ことに気付かされた。

 筆者にとって非常に新鮮な発見でもあり、昨今はeスポーツが隆盛なのも、理解できた次第である。

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