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佐々木裕介フットボールツーリズム アドバイザー

1977年生まれ、東京都世田谷区出身。旅行事業を営みながらフリーランスライターとしてアジアのフットボールシーンを中心に執筆活動を行う。「フットボール求道人」を自称。

“タイのメッシ”こと川崎チャナティップはアジア市場開拓のアイコンになるか(上)

公開日: 更新日:

 あの熱苦しい程の熱量を浴びてしまったばっかりに中毒症になったのがすべての始まりだった。

 その犯人こそが、東南アジアに蔓延する情熱的フットボールである。

 時にはバスの屋根に乗りながら太鼓を叩き、旗を振って集まってくる大衆を目の当たりにしたり、時にはチケットを持たなくともスタジアムに入りたくて暴徒化したファンが、機動隊へ向けて火炎瓶を投げ合う戦火に居合わせたり、と。

 またスタジアム内外を取材して回りたいと言えば、クラブオーナーが自身の屈強な護衛を5人も筆者に付けてくれたこともあった。

 確かに身の危険を感じることもあったが、現場で起こる様々なことが非日常的ドキュメンタリーにも感じ、以後、やめられなくなってしまって今に至っている。

■アジア戦略は機能しているか? それとも十年一日か?

 Jリーグがアジア戦略と銘打って注力し始めたのが2012年。それから多くのJクラブが、その地力に自らの未来を透かせて陣取り合戦を繰り広げた。

 しかし、実際は名ばかりの業務提携が多く、協業出来ているクラブは極めて少ない。

 フットボール先進国出身の指導者が、外国人監督として現場最高位の職に収まることの多かった地域において、極東出身の指導者が、その位置を確保することも珍しくなくなってきた現状もある。 

 果たして、そのアジア戦略とやらは、双方のフットボール文化に利益をもたらしているのか、ふと疑問に思ったのである。

 あれから10年、アジアと共存共栄していく道を模索するJリーグやクラブが、また自らの可能性を追い求め、ひと花咲かせたくて日本へやってきた選手にフォーカスし、アジア戦略は機能しているのか、東南アジアサッカーに未来はあるのか、多角度から検証してみるのも、面白い時期なのではなかろうか、と思ったのが事の始まりとなる。

■国内移籍金最高額5億円で王者の一員に

 先ずはアジア戦略を論ずる上で、外すことの出来ない存在がいる。

 推定5億円とも言われる国内移籍金最高額で王者・川崎フロンターレへ新天地を求めたチャナティップ・ソングラシンだ。 

 今冬に突如決まった移籍に本国タイは熱狂し、その興奮はより増しているようにも感じる。SNSやYouTubeでは彼の話題が連日のようにアップされている。そして隣国のライバル諸国もまた、彼の動向を注視していることも事実だ。

あの高速ドリブルはもう見られないのか

 それは筆者もご多聞に漏れない。2月12日のスーパーカップ(対浦和戦/0-2)を皮切りにJ開幕2連戦(対FC東京戦/1-0、対横浜FM戦/2-4)を現場で取材した。

 どの試合も先発出場して60分過ぎまでプレーしたチャナティップ。

 悪くはないが、良くもない、というのが率直の感想である。熟練されたカワサキ・スタイルに順応するには、時間が必要であることは誰の目にも明白だった。

 しかし、良い傾向も現れ始めている。続く2試合(対鹿島戦/2-0、対浦和戦/2-1)では連勝に貢献。特に浦和戦では、川崎特有のパスの出し入れに馴染み始めた場面も多く見られ、出場時間も伸びたことは彼にとっての好材料だろう。

 ただ、筆者がタイで魅せられた若かりしチャナティップは、本当に変幻自在のドリブラーだった。 

 自国では「メッシ・ジェイ」と比喩されたニックネームを持つ通りに本家同様、相手をかく乱させる足技を織り交ぜた高速ドリブルでファンを魅了してきた。

 しかし、昨今はバランスを意識しながらのチャンスメイクに徹したプレーに重きを置く傾向が強い。

 今季の川崎でも、インサイドハーフから試合を操る役割を担っているが、タイのファンは、この姿をどのように感じているのだろうか。(つづく)

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