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佐々木裕介フットボールツーリズム アドバイザー

1977年生まれ、東京都世田谷区出身。旅行事業を営みながらフリーランスライターとしてアジアのフットボールシーンを中心に執筆活動を行う。「フットボール求道人」を自称。

C大阪のアジア戦略を牽引する事業部長・猪原尚登氏に聞く「過去・現在・未来」

公開日: 更新日:

 J1・セレッソ大阪のアジア戦略「10年の歩み」を振り返る企画。初回はチーム所属のタイ代表MFチャウワット選手(26)をインタビュー。引き続いて後編はプロジェクト発足時から先頭に立って勇往邁進してきた猪原尚登氏(セレッソ大阪事業部部長)にアジア戦略の過去・現在・未来についてじっくりと聞いた。

■BGパトゥム・ユナイテッドFCと提携協定

 ──2012年にJリーグがアジア戦略を打ち出してから10年が経ちました。これはリーグだけでなく、ビジョンにいち早く呼応したセレッソ大阪の歩みでもあります。この10年を振り返ってみると?

「10年前と言うのは、クラブが成長していく過程で2012年ロンドン五輪に清武弘嗣や山口蛍が出場し、セレッソブランドが広く知られ始めた頃でした。その後に柿谷曜一朗がブレイクし、2014年にはウルグアイ代表FWディエゴ・フォルランが加入とクラブとしてグンと成長していった時期でもあったんです。そういった中、Jリーグが掲げたアジア戦略にクラブとしていち早く取り組んでいこうと始めたーーという流れでした」

 ──2012年3月には、バンコクグラスFC(現BGパトゥム・ユナイテッドFC=以下BG)と提携協定を締結した。どんな経緯だったのでしょうか?

■日本の育成スタイルを取り入れたい

「2011年12月にBGの幹部が来日し、そこで初めて挨拶をさせていただき、いろいろな話をしました。彼らは日本サッカーの育成スタイルを取り入れて成長したいという希望を持っており、いくつかのJクラブとコンタクトを取っていたようです。その後、年をまたいだ2012年2月にタイ視察(トヨタプレミアムカップ・ベガルタ仙台vsブリーラムPEA)に行った際にBGを訪問させてもらいました。そこでセレッソがどんなクラブなのか、改めて話させていただき、最終的に両クラブの合意の元でパートナーシップを結んだというのが経緯です」

 ──この10年で一定の成果を上げてきたのは、提携パートナー(BG)にも恵まれたからでしょうか。

■東京よりも大阪の方が良いなぁ~

「そうですね。2012年からアジア戦略に呼応するクラブが東南アジアを意識し始め、セレッソ以外にも幾つかのJクラブがタイのクラブと提携を結びましたが、そんなに長く続かなかった事例も見てきた中、BGがパートナーだったからこそ、良い関係が続いているとは思っています。彼らはクオリティーの高いコンテンツをいち早く公開するんですよ。そういったスピード感の面でも共感できますし。そして何よりもBGの皆さんは日本が好きなんですよね。よく大阪へいらっしゃるせいなのか、東京よりも大阪の方が良いなぁ~なんて言ってくれますしね(笑い)」

■Jでは出来ないようなハイレベル施設

「実は8月にタイへ行ってきたんですが、そこで久しぶりにBGのオーナーとお会いする機会があって『お互い次のステージに入ったね』という話になったんです。BGは昨季と今季にACLへ出場していますし、最近新しいクラブハウスが完成したんですが、それがJクラブでは出来ないようなハイレベルの施設で。

 そこへ風間さん(八宏/セレッソ大阪スポーツクラブ技術委員長)にも一緒に行ってもらってセレッソの育成メソッドはこうだよ、ああだよといった情報共有もやってきたんです。またウチのスタッフで、タイでのプレー経験がある丸山(良明。アカデミーダイレクター)や猿田(浩得。アカデミースタッフ)も一緒に連れて行ったんですが、この10年間でここまで来たんだなぁ~と感慨深いものがありました」

■自前で育てて世界へ羽ばたかせる

 ──2016年にはそのBGと共同でタイ人選手を育成するヤマオカ・ハナサカ・アカデミー(YHA)を設立。中学2年から高校3年までのタイ人選手が文武を両道していると聞きましたが、現在は活動停止中とのこと。運営再開のめどは?

「コロナ禍でアカデミーを運営するのが難しくなってしまったんです。集団生活の維持が難しく、寮生活を送るにも感染リスクが高い。なので生徒全員を帰国させました。現在は、アフターコロナとしての運営方法を協議しているところで実は、8月の現地出張はこの話しがメインだったんです。少しづつやり方を変えながら進めていこう、という話をしてきたところです」

 ──「自前で育てて世界へ羽ばたかせる」と育成に注力されるクラブというのが(筆者の)セレッソ大阪に対するポジティブイメージです。まさにそれをタイでもやろうということ?

■チャウワット選手再獲得には驚いた

「元々クラブとして育成に重きを置いてきた中、インス(チャウワット選手のニックネーム)のようにセレッソに来て経験を積んだ選手がタイへ戻り、また活躍してタイ代表になる──といったセレッソブランドのタイ代表選手が生まれたらいいな、というイメージは持っていましたので、今後もBGと一緒に同じ流れで進めていければ良いなと思っています」

 ──今季のサマーウインドウで再獲得となったチャウワット選手の加入(2018年シーズンにC大阪に在籍。2022年7月に4年半ぶりに復帰)には正直、驚かされました。どのような獲得経緯が?

「インスのことは強化部もずっと気に掛けていて、彼がタイ代表に選ばれたことなど私から強化部へ情報共有をしたりしていたんです。ボランチを補強したいという意向があり、夏の市場で多くの予算を掛けて獲ることは難しいといったクラブの現状の中、ACLのグループステージへ強化部長と一緒に視察に行ったんです。そこで彼の成長を我々の眼で確認して今回、インスへオファーを出して加入してもらったという流れです。恐らく手倉森さん(BG監督。仙台、日本五輪代表監督など歴任)からすれば、手元に置きたかったとは思うんですけどね(苦笑)」

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