「おいおい、壊さんでくれよ。ワシの家やが」初代増位山の一言が示した部屋制度の根幹

公開日: 更新日:

 北の湖の現役晩年に序盤で黒星が先行し、もしや引退かと、取組後に報道陣が三保ケ関部屋へ押し掛けていた頃だった。師匠(元大関初代増位山=写真)が応対するというので、記者たちが上がり座敷へなだれ込んだ時、ガシャンと音がした。誰かが床の間の何かに触れたようだ。親方が音のした方をじろりとにらんだ。

「おいおい、壊さんでくれよ。ワシの家やが」

 ドスの利いた声とともに、相撲部屋は私有財産だという部屋制度の根本が、駆け出しの頭にたたき込まれた瞬間だった。

 北海道の「怪童」と呼ばれた北の湖は、幾つもの部屋から誘われたが、手編みの靴下をくれた三保ケ関親方の弟子になった。その師匠が日本相撲協会定年の翌年に亡くなった時は、同じ日の近い時刻に実父も亡くなる数奇な不幸に遭いながら、師匠の葬儀を優先した。部屋制度の根幹がここにもうかがえる。今では地価高騰や部屋継承の経緯などから、土地建物が賃貸の部屋が珍しくない。やむを得ず「通い」になる師匠もいる。だが、形態はどうあれ自前で確保するのだから、部屋の存廃は一筋縄ではいかない。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  4. 4

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  5. 5

    2025年は邦画の当たり年 主演クラスの俳優が「脇役」に回ることが映画界に活気を与えている

  1. 6

    真木よう子「第2子出産」祝福ムードに水を差す…中島裕翔「熱愛報道」の微妙すぎるタイミング

  2. 7

    M-1新王者「たくろう」がネタにした出身大学が注目度爆上がりのワケ…寛容でユーモラスな学長に著名な卒業生ズラリ

  3. 8

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  4. 9

    高市政権の積極財政は「無責任な放漫財政」過去最大122兆円予算案も長期金利上昇で国債利払い爆増

  5. 10

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手