故・伊良部秀輝が描いた見果てぬ夢「野球をやめることになったら、米国で…」
「仮に現役をやめるにしても、それが自分流のケジメのつけ方や」
もうひとつは、野球への未練だと思う。伊良部はこと野球に関しては、異常なまでの貪欲さを見せる。レンジャーズ時代には、あのノーラン・ライアンを困惑させた。それまで面識のなかった大投手をつかまえ、投球フォームについて質問攻め。ライアンもさぞ困惑したことだろうが、「打者に向かっていくときの正しい姿勢は?」「リリースの瞬間を打者から少しでも見えにくくするにはどうしたらいい?」と、伊良部は質問することをやめなかったという。
トレーニングの知識もハンパではない。伊良部が常に左肩に下げているリュックサックには、数十種類のサプリメントが入っている。「まるでクスリ屋やな」と冷やかすボクに、「酒を飲む前にはこれを飲め」とウコンの錠剤を取り出し、「肝臓にええから」。寿司屋に行けば、席に座るや否や、「大将、血液がきれいになるネタだけ持ってきて」と注文し、けげんそうな大将の顔を見ては「血をサラサラにするのはね」と栄養学の講義を始めるといった具合。
伊良部の生活、考え方の中心にはいつも野球があった。来年でもう36歳。阪神をクビになり、現役続行への道は厳しいと言わざるを得ない。それでも、伊良部の中では、現役を続けるという以上に、野球をやめると決断することの方が困難なのだろうと思う。


















