【格差と資本主義】金融資本主義がもたらした中間層の転落

公開日: 更新日:

「誰がアメリカンドリームを奪ったのか?」(上・下) ヘドリック・スミス著、伏見威蕃訳

 かつて世界のだれもが信じていたアメリカンドリームの神話。しかし著者は既に30年も前から「私たちアメリカ人は(略)大家族ではなくなった」と冒頭からこう断定する。

「現在のアメリカは、権力、金、イデオロギーでくっきりと二分された国になっている。政治は怨恨に満ち、二極化し、政治指導者たちはもっとも基本的な問題すら解決できない」

 始まりは1970年代初頭。保守派のニクソン政権時代だったが、大衆の支持をねらったニクソンの税制改革は企業に厳しく、ここから財界の巻き返しが始まる。

 90年代になると高い品質を追求して競争力を確保する伝統的な米製造業の発想はウォール街の金融資本主義に取って代わられ、コストと工場と雇用を削減する劇的なダウンサイジング手法が大物投資家の心を射止める。

 一方で、堅実な中流層から雇用と安定した生活の展望を奪い去って、格差社会が本格化し、恵まれた従業員が健全な消費者になるという信念が「株主利益の最大化」に敗北する。

 こうして起こった中間層の転落がアメリカンドリームの消滅をもたらしたのだ。

(朝日新聞出版 各2000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々