「猫はふしぎ」今泉忠明氏

公開日: 更新日:

「最近の猫ブームでは、『かわいい』『癒やされる』と言われますが、もっとほかの魅力があるよと伝えたくて、この本を書きました。単独で狩りをするヤマネコの血をひいているので、本当はひっそりと、静かにしていたい、かまってほしくないんです。それなのに、駅長をやったり、土鍋に入れられたりして、猫にとっては迷惑でしょうね」

 群れで狩りをする動物と違い、単独行動のため、成功率は1割にも満たないが、狩りに失敗して落ち込んでいたら食いっぱぐれてしまう。そこで、すぐに気分転換することと、気まぐれさを身につけたのだ。

 著者は、哺乳動物学者であり、「ねこの博物館」(伊豆高原)の館長さん。

「強くないと生きていけない野生時代が残っているんです。人に飼われるようになってから、子猫的にふるまうようになりましたが、甘えたかと思うと元の野生にスッと戻る。すると人間の側は戸惑い、気まぐれだと感じるわけです。飼われていても、いやになると噛むし、ひっかくし、家出するし、抵抗します。つまり、おしっこ以外、犬のようなしつけはできないのが猫なんです」

 猫同士素知らぬふりをするのは、仲良くしすぎると自分のテリトリーがエサ不足になるから。一方、駐車場などで何匹も集会のように居合わせているのは、無駄なケンカを避けたいからだという。

「母猫は、獲物を襲って殺して食べることを、自らやって子猫に見せ、子猫はそれができたら独立です。人間も猫の子育てから学ぶことがあるんじゃないでしょうか」

 もともとは海が好きで東京水産大学に進学したが、動物学者の父が、発見されたばかりのイリオモテヤマネコを飼うことになったのが転機となる。

「おまえ暇だろう、と2週間世話を任され、その後も島での調査を手伝うことになりました。観察するのは夜中、木の上でひとりでひたすら待ちます。すると真っ暗な森の中にイリオモテヤマネコが現れた。こっちも孤独、あっちもひとりで生きている。その姿に引かれ、猫って偉いなあ、と思いました。だから、猫に癒やされようなんて甘えていないで、むしろ人間が猫を癒やしてあげなきゃいけません。猫も孤独なんだから私も頑張ろう、と思わないと(笑い)」

(イースト・プレス 760円+税)

▽いまいずみ・ただあき 1944年東京生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。上野動物園で動物解説員を経て、現在は奥多摩の自然を調査。著書に「小さき生物たちの大いなる新技術」「猫語レッスン帖」ほか。

【連載】著者インタビュー

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?