著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「虹を待つ彼女」逸木裕著

公開日: 更新日:

 人工知能と会話をするアプリを研究している男がいる。その研究家・工藤が、死者を人工知能化するプロジェクトに参加するのがこの物語の真の始まりだ。

 試作品のモデルに選んだのは、自殺した美貌のゲームクリエーター水科晴。彼女は6年前、自作のゲームとドローンを連携させ、自らを標的にして自殺した。なぜそんなことをしたのかと世間を騒がせた事件だが、その比類ない孤独に興味を持ったのがひとつ。もうひとつの理由はいまでもカルト的な人気があること。つまり話題性がある。

 というわけで、その謎のヒロインがどういう人生を送っていたのか、その調査が始まっていく。人工知能化するには彼女が何を考えていたのかを知る必要があるからだ。完璧な人工知能をつくるためには、さまざまな人に会って、「水科晴」というヒロインを再構築しなければならない。

 誤解をおそれずに言うならば、本書はそれだけの話だ。ところが、圧倒的に面白い。それは構成が群を抜いているからだ。水科晴に「雨」と呼ばれる恋人がいたこと、調査をやめなければ殺すと脅迫されること、そんなことをする女性には見えないのに水科晴が次々に男を代えていたこと――。

 いくつもの謎が絡み合って、すべてが明らかになるラストになだれこんでいく。最後に立ち上がってくるヒロイン像が圧巻だ。

 第36回横溝正史ミステリ大賞の受賞作である。(KADOKAWA 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ

  2. 2

    「備蓄米ブーム」が完全終了…“進次郎効果”も消滅で、店頭では大量の在庫のお寒い現状

  3. 3

    阿部巨人が今オフFA補強で狙うは…“複数年蹴った”中日・柳裕也と、あのオンカジ選手

  4. 4

    さや氏の過去と素顔が次々と…音楽家の夫、同志の女優、参政党シンボルの“裏の顔”

  5. 5

    ドジャース大谷翔平「絶対的な発言力」でMLB球宴どころかオリンピックまで変える勢い

  1. 6

    参政党のあきれるデタラメのゴマカシ連発…本名公表のさや氏も改憲草案ではアウトだった

  2. 7

    参政党「参院選14議席」の衝撃…無関心、自民、れいわから流れた“740万票”のカラクリ

  3. 8

    オレが立浪和義にコンプレックスを抱いた深層…現役時代は一度も食事したことがなかった

  4. 9

    参政党・神谷宗幣代表「日本人ファースト」どこへ? “小麦忌避”のはずが政治資金でイタリア料理三昧

  5. 10

    ドジャースに激震!大谷翔平の“尻拭い役”まさかの離脱…救援陣の大穴はどれだけ打っても埋まらず