著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「我ら荒野の七重奏」加納朋子著

公開日: 更新日:

 出版社で働く山田陽子は、一人息子の陽介が中学に入ったのでこれで一息つけると最初は思う。小学校時代は親の負担が多くて大変だったが、もう中学生なんだからあんなことはあるまいと思うのが人情というものだ。ところが吹奏学部に入った陽介が希望するトランペットを担当できないと聞いて早速学校に乗り込んでいく。陽子に言わせれば中学は理不尽なことばっかりなのだ。もっともこればかりは事情を説明されると諦めざるを得ないのだが。

 演奏会場の予約のために、真夏に徹夜で市民ホール前に並んだり、部活動をママボスが牛耳っていたり、次々にさまざまなことが起こるので、ホント、大変である。中学の部活動にこれだけ親の負担が多いとは驚く。その親たちの奮闘を丸ごと本書は描いていく。

 中学の部活動を親の側から描くというのは珍しい試みだが、ヒロインをはじめ、脇役たちの造形も良く、さらに挿話も面白いのでどんどん引き込まれていく。特に、ヒロイン陽子の勇ましさに注目。仕事も育児も全力で取り組むブルドーザー陽子はどんな敵でも正面からぶつかっていくから痛快である。

 一人息子の陽介が小学生時代、このヒロインがどんな戦いをしてきたかは、前作「七人の敵がいる」を読まれたい。笑いと涙の、このPTAエンターテインメントシリーズ、おそらくまだまだ続刊は書かれるだろう。第3作を楽しみに待ちたい。(集英社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    ドジャース佐々木朗希「今季構想外」特別待遇剥奪でアリゾナ送還へ…かばい続けてきたロバーツ監督まで首捻る

  4. 4

    中日・中田翔がいよいよ崖っぷち…西武から“問題児”佐藤龍世を素行リスク覚悟で獲得の波紋

  5. 5

    西武は“緩い”から強い? 相内3度目「対外試合禁止」の裏側

  1. 6

    「1食228円」に国民激怒!自民・森山幹事長が言い放った一律2万円バラマキの“トンデモ根拠”

  2. 7

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  3. 8

    辞意固めたか、国民民主党・玉木代表…山尾志桜里vs伊藤孝恵“女の戦い”にウンザリ?

  4. 9

    STARTO社の新社長に名前があがった「元フジテレビ専務」の評判…一方で「キムタク社長」待望論も

  5. 10

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは