著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ヘダップ!」三羽省吾著

公開日: 更新日:

 サッカー小説である。ただし、舞台がJFLなので、これまでのサッカー小説とは少しだけ異色の展開になる。

 主人公は高校を卒業してJFLのチームに入った桐山勇、18歳。J1の古豪チームから一度は内定をもらったものの、契約直前に白紙になり、仕方なくJFLに。それだけでも落ち込んでいるのに、本来のFWではなくボランチ起用。さらにチームの面々とも話が合わないから落ち込む一方だが、そこでさまざまな人と会い、彼は大人になっていく。つまり、これは成長小説だ。

 その意味では珍しいものではないが、舞台がJFLということで、その特殊な環境が物語に効いてくる。JFLというのはJ1、J2、J3ときて、その下のカテゴリーである。JFLのチームには、観客の誘導やチケットのモギリやグッズの販売などを無償で手伝うサポーターがいるのだ。

 彼らが働くのは、試合を観戦できないような場所である。試合の様子は、あとでサポーター仲間が撮ったDVDで見る。せっかく選手たちのすぐ近くにいるのに、生で試合を観戦できないというから驚く。そういう熱心なサポーターにJFLのチームは支えられている、ということだろう。

 サッカーの試合の様子も迫力満点に描かれるので興味は尽きないが(そこは三羽省吾、やっぱりうまい)、そのサポーターたちの無償の行為に、一番感動する。(新潮社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々