日刊ゲンダイDIGITAL

  • facebook  
  • twitter  
  • Facebook Messenger

「曲がりくねった一本道」徳永徹著

 長崎に原爆が投下された時、著者は17歳だった。熊本の旧制五高に入学し、実家がある長崎を離れていて命拾いしたが、友を多く失った。敗戦後、程なく長崎に戻り、無残な光景を目に焼き付けた。戦って死ぬ覚悟を決めていた軍国少年の心は、時代の大きなうねりの中で漂流し、複雑な転換を遂げていく。

 その後、基礎医学の研究者の道を選び、国立予防衛生研究所に勤務。結核、エイズなどの感染症の撲滅に努め、所長となる。退官後は福岡女学院院長、同看護大学学長として教育に携わった。

 現在、89歳。日本の激動、激変を、身をもって体験してきた人の自分史は、そのまま現代史の証言となっている。

 原爆投下から3年後、科学を志す若き著者は、日記にこう書いている。

「この人間と乖離した科学の歩みは、今後ともすごいスピードで進んでいくであろう」

 事実、ものすごいスピートで人類は「進歩」した。医学、生物学の基礎研究の分野でも、分子生物学とそれに続く免疫学が驚異的な進展を見せた。例えば、エイズとの闘いについて著者は、「世界に蓄積された人類の科学的知識が総動員され、感染症の歴史の中では天然痘の撲滅に次いで、人類史の輝かしい一ページを見るような気がした」と書いている。

 一方で、「戦後」が風化しつつあることを危惧する。福島の原発事故、改憲論議、安保関連法に触れて、こう言い切る。「進んで破壊の戦列に加わり、人命を奪ってまで得る富は、もう要らぬ。理屈で固めた『平和』は血のにおいがする」

 長崎の原爆体験から福島の原発事故までを見据えてきた人の言葉は重い。(作品社 1600円+税)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事