(53)慣れ親しんだ電話番号の消滅…どうしようもなく泣けてきた

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 母が退院し、施設に戻ることになった日、必要な手続きを行うため私はとんぼ返りで熊本の実家へ向かった。無人になって久しい家の郵便受けには、築45年目の外装と防水工事の点検案内のハガキが届いていた。

 実家はパネル工法の鉄筋軽量気泡コンクリート造り。木造と違って傷みにくいが、防水を怠ると隙間から水が入り込み、家そのものを傷めてしまうという。

 ちょうど母の意識がはっきりしていたタイミングだったこともあり、前回、防水工事を行ったのはいつなのか聞いてみると「もう20年くらい前」と教えてくれた。

 実家の私の部屋の天井の隅には、雨染みがある。おそらく屋上の防水効果がすでに失われているからだろう。とはいえ、今は誰も住んでおらず、今後どう扱うかも決まっていない家に100万円を超える工事を施すべきなのか悩んだ。

 いずれ取り壊す可能性が高い家だ。中の荷物を処分するにも、建物を解体するにも費用がかかる。それらを考え合わせ、防水工事は見送ることにした。

 人が出入りしない家は、空気が通わず、排水トラップが干上がり、静かに雨の浸食を受けていく。これまでは「誰も住んでいない」ことばかりを気にしていたが、この日初めて、「この家はいずれ朽ちていくのだ」と自覚した。

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