近づく“その時”に焦らず冷静に向き合う…看取る家族ができること
「昨日から内服ができず、オプソも口に含んでも飲み込めない状態です。肩呼吸が始まっているので、アセリオの検討もお願いできたらと思います。浮腫もたまっていて、急に落ちる可能性もあると思いまして」
毎日訪問してくださっている訪問看護師さんから、こんな連絡を受けました。「オプソ」とは、主にがん患者さんの鎮痛や呼吸困難の緩和に用いられる内服薬で、「アセリオ」はアセトアミノフェンを有効成分とする医療用解熱鎮痛剤の点滴薬。そのどちらも難しいほど患者さんの嚥下機能が弱ってきているようでした。この患者さんは80歳の女性で、旦那さんと娘さんと3人暮らし。夏ごろに腹痛があり、胃カメラをしたところ、胃の出口である幽門が狭くなるほどの潰瘍が見つかりました。秋には膵頭部がんも判明。思いのほかがんの進行が速く、病院での積極的治療は見送ることになったのです。
耳元で声をかけたり肩を軽く叩く程度の刺激でかろうじて反応する、いわゆる「傾眠傾向」と呼ばれる軽度の意識障害にすでに陥っていました。それでもトイレ歩行は可能だったため、いったん退院し、ホスピス入居も視野に入れながら、介護方法を学びつつ自宅で過ごす選択をされた方です。とはいえ、消化器の病気のため食事が難しく、便秘になるとお腹が張って苦しくなることが多く、ご家族も心を痛めておられました。そして冒頭の「薬が飲み込めない」という連絡を受け、私は自宅へ往診することになりました。


















