【恋愛小説】待つことの残酷さと不条理

公開日: 更新日:

 世の中には「ひとめ惚れ」を体験した人と、しない人がいる。前者で、あの刹那に覚えがある人は、この作品の表現すべてが狂おしく感じるだろう。後者でも、恋に落ちて感情の制御不能に陥った人は、胸の痛みに悶え苦しむはず。そう、これは激痛必至の恋愛小説だ。

 ただし、惚れた腫れたの稚拙な純愛小説でもなければ、陳腐な不倫小説でもない。待つことの残酷さと恋愛における不条理を描いているのだ。

 舞台はロサンゼルス、虚飾と欺瞞に満ちたハリウッドだ。登場人物は俳優で、実在の映画監督や俳優たちが名を連ね、虚実ないまぜに映画界の実情が描かれていく。ハリウッドスターの退廃的なパーティーシーン、過酷な撮影現場のリアリティー、スポットライトを浴びる人々への皮肉まじりの称賛と揶揄……。ハリウッドのゴシップが好きな人や映画好きの下世話な好奇心をも満たしてくれる作品だ。

 最大の収穫物は、西欧文明中心思考の愚かさに気づかされる点だ。無意識の差別、偏見、誤解、そして無知。この難しいテーマを「黒人男に恋をする白人女の逡巡」で具現化。甘く切なく、そして冷酷に、西欧優位主義を覆されるのである。

★先週のX本はコレでした

「メシュガー」
アイザック・B・シンガー著
吉夏社 2600円+税

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    侍ジャパンに日韓戦への出場辞退相次ぐワケ…「今後さらに増える」の見立てまで

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  4. 4

    “新コメ大臣”鈴木憲和農相が早くも大炎上! 37万トン減産決定で生産者と消費者の分断加速

  5. 5

    侍J井端監督が仕掛ける巨人・岡本和真への「恩の取り立て」…メジャー組でも“代表選出”の深謀遠慮

  1. 6

    巨人が助っ人左腕ケイ争奪戦に殴り込み…メジャー含む“四つ巴”のマネーゲーム勃発へ

  2. 7

    藤川阪神で加速する恐怖政治…2コーチの退団、異動は“ケンカ別れ”だった

  3. 8

    支持率8割超でも選挙に勝てない「高市バブル」の落とし穴…保守王国の首長選で大差ボロ負けの異常事態

  4. 9

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 10

    和田アキ子が明かした「57年間給料制」の内訳と若手タレントたちが仰天した“特別待遇”列伝