ファンタジー界に新風の超大作

公開日: 更新日:

「図書館の魔女」1~4 高田大介著/講談社文庫①680円+税②780円+税③700円+税④1000円+税

【話題】「図書館は書物の集積から織りなされた厖大な言葉の殿堂であり、いわば図書館そのものが一冊の巨大な書物」であると高々と宣言するのは、本書の主人公である「図書館の魔女」ことマツリカだ。若くして何十という言語に明るく、東西の万巻をいともやすやすとひもとくという異能の持ち主。ただし、彼女は口が利けなかった――。

【あらすじ】鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、師から峠向こうの都市、一ノ谷へ行って、「高い塔」と呼ばれる図書館に仕えるよう命じられた。その役目は耳は聞こえるが口の利けない塔の主、マツリカの手話を自由に声に移すことだ。ところが、キリヒトは文字が読めなかった。それでも鋭い感覚と素直な心を持つキリヒトは、懸命に文字を学び、まもなくマツリカには不可欠の片腕となった。キリヒトの才能を見込んだマツリカは、従来の手話ではできなかった細かなニュアンスを伝えられる指文字を創案する。

 このマツリカとキリヒトの関係が物語のひとつの軸だが、もうひとつは、図書館の位置する海峡地域における大国間の覇権争いと、それに歯止めをかけようとする図書館=マツリカとの権謀術数に満ちた争いだ。言葉の片言隻句をもって隠れた本質を見抜くマツリカと、マツリカを利用して敵を追い落とそうと画策する大国の野望。この2つの軸が絡み合いながら、マツリカとキリヒトは過酷な闘いへと巻き込まれていく……。

【読みどころ】原稿用紙3000枚という超大作だが、さまざまな要素が盛り込まれていて飽きさせない。なかでも言語の問題には、著者の専門が言語学だけに、かなりの紙数が費やされ、読み応え十分。ファンタジー界に新風を吹き込んだ話題作。

<石>

【連載】文庫で読む 図書館をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  5. 5

    巨人正捕手は岸田を筆頭に、甲斐と山瀬が争う構図…ほぼ“出番消失”小林誠司&大城卓三の末路

  1. 6

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  2. 7

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    「ばけばけ」苦戦は佐藤浩市の息子で3世俳優・寛一郎のパンチ力不足が一因