カルテットが紡ぐ人間ドラマ

公開日: 更新日:

「弦と響」小池昌代著/光文社文庫 495円+税

 今年の初めに放映されたTVドラマ「カルテット」は、質の高いオリジナルドラマとして高い評価を得た。物語は、偶然出会った、松たか子(第1バイオリン)、満島ひかり(ビオラ)、高橋一生(チェロ)、松田龍平(第2バイオリン)の4人が弦楽四重奏団(カルテット)を結成し、軽井沢で合宿生活を送るというもの。本書もカルテットが主人公の音楽小説。

【あらすじ】小説の中で、ビオラの女性が「四重奏団に入るためには共同生活する必要がある」という言葉を引いているが、カルテットというのはオーケストラともソリストとも違う独特の人間関係が生まれるようで、そこにドラマも生まれるのだろう。

 鹿間四重奏団は、30年の歴史を誇る人気カルテット。4度の結婚歴があり、音楽と女性に対する並々ならぬ情熱を抱く第1バイオリンの鹿間五郎。美男だが孤独の影の濃い第2バイオリンの文字相馬。美人で高度な技術を持つビオラの片山遼子。常に控えめなチェロの伊井山耕太郎。

 鹿間と伊井山は同期で70代半ば。伊井山は寄る年波で力が衰え脱退を申し出たところ、鹿間は解散を決める。

 そしてラストコンサートを迎えるのだが、その当日の模様が、4人のメンバーをはじめ、伊井山の妻、マネジャー、コンサートホールの裏方、鹿間の元恋人、音楽雑誌の記者、初めてクラシックコンサートに来た主婦など、さまざまな視点から描かれていく。

【読みどころ】メンバー4人の人間関係、地味なカルテットを長い間支えてきたスタッフの苦労、日常に疲れた主婦の音楽を聴く喜びなどが混然となって特別な一夜が過ぎていく――あたかも、そこに集まった演奏者、スタッフ、観客たちによって奏でられた壮大な協奏曲かのように。 <石>


【連載】音楽をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ

  2. 2

    「備蓄米ブーム」が完全終了…“進次郎効果”も消滅で、店頭では大量の在庫のお寒い現状

  3. 3

    阿部巨人が今オフFA補強で狙うは…“複数年蹴った”中日・柳裕也と、あのオンカジ選手

  4. 4

    さや氏の過去と素顔が次々と…音楽家の夫、同志の女優、参政党シンボルの“裏の顔”

  5. 5

    ドジャース大谷翔平「絶対的な発言力」でMLB球宴どころかオリンピックまで変える勢い

  1. 6

    参政党のあきれるデタラメのゴマカシ連発…本名公表のさや氏も改憲草案ではアウトだった

  2. 7

    参政党「参院選14議席」の衝撃…無関心、自民、れいわから流れた“740万票”のカラクリ

  3. 8

    オレが立浪和義にコンプレックスを抱いた深層…現役時代は一度も食事したことがなかった

  4. 9

    参政党・神谷宗幣代表「日本人ファースト」どこへ? “小麦忌避”のはずが政治資金でイタリア料理三昧

  5. 10

    ドジャースに激震!大谷翔平の“尻拭い役”まさかの離脱…救援陣の大穴はどれだけ打っても埋まらず