オーケストラの裏方仕事にスポット

公開日: 更新日:

「女神のタクト」塩田武士著 講談社文庫660円+税

 現在、日本オーケストラ連盟には正・準会員合わせて36のプロオーケストラが加盟しているが、そのほとんどが補助金に頼り、財政的には厳しい状況にあるといわれている。多くの楽団員の給料も含め、大所帯の組織を維持していくことは容易ではない。まして、連盟に所属していない地方の小さなオーケストラとなれば推して知るべしである。本書は、そんな地方の弱小オーケストラが舞台。

【あらすじ】矢吹明菜は30歳にして「職」と「男」を同時に失った。ヤケで傷心の旅に出た明菜は、明石の海岸でiPodでラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を聴いていた老人、白石麟太郎と出会う。

 その白石から持ちかけられたアルバイトは、ある男を京都から神戸に連れてくるという簡単なもの。男は現在活動休止中の新進気鋭のマエストロ、一宮拓斗。拓斗を、職員に資金を持ち逃げされ瀕死状態のオーケストラ「オルケストラ神戸」の指揮者に迎え、起死回生を図ろうというのが白石のもくろみだった。

 明菜は持ち前の強引さで、嫌がる拓斗を脅しつけて了承させる。とはいえ、クリスマスの自主公演まで時間もないし予算もない。行きがかり上、明菜もスタッフの一員となり、ないない尽くしのオーケストラが公演開催に向けて一丸となっていく。

 何とか破格の料金で会場を確保したものの、予想外の事態が次々と起こり、明菜たちスタッフは窮地に追い込まれる……。

【読みどころ】あまり知られることのないオーケストラの裏方仕事が丁寧に書かれているのがユニーク。

 それ以上に、明菜、白石、拓斗、それぞれの音楽に対するひとかたならぬ思いが物語の重要な核となり、それらがひとつになって最後、大きな感動を引き起こす。 <石>

【連載】音楽をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  2. 2

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  3. 3

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  4. 4

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  5. 5

    田中圭が『悪者』で永野芽郁“二股不倫”騒動はおしまいか? 家族を裏切った重い代償

  1. 6

    のんが“改名騒動”以来11年ぶり民放ドラマ出演の背景…因縁の前事務所俳優とは共演NG懸念も

  2. 7

    ダウンタウン「サブスク配信」の打算と勝算……地上波テレビ“締め出し”からの逆転はあるか?

  3. 8

    1泊3000円! 新潟県燕市のゲーセン付き格安ホテル「公楽園」に息づく“昭和の遊び心”

  4. 9

    永野芽郁と橋本環奈…"元清純派"の2人でダメージが大きいのはどっち? 二股不倫とパワハラ&キス

  5. 10

    田中圭“まさかの二股"永野芽郁の裏切りにショック?…「第2の東出昌大」で払う不倫のツケ