著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「東の果て、夜」 へビル・ビバリー著 熊谷千寿訳

公開日: 更新日:

 ロードノベルである。語り手は15歳の少年イースト。向かうのは2000マイルも離れたウィスコンシン。旅に同行するのは、13歳の弟タイと、年上のマイケルとウォルター。このロードノベルが異色なのは、旅の目的が殺人であることだ。イーストの叔父フィンがギャング組織のボスで、組織に不利な証言をする男の抹殺を、彼らに命じるのである。さらにその殺人を実行するのが組織の殺し屋タイ。なんと13歳の弟が冷酷な殺人者であるのだ。

 したがって、のどかな旅ではない。年上のマイケルが運転する車で彼らは目的地に向かうのだが、タイは後部座席でずっとゲームをしているだけで、誰とも会話せず、打ち解けようとはしない。彼は兄のイーストとも距離を持ち、というよりも、この兄弟の仲は良くない。いちばん年長のマイケルは、途中でカジノに寄ろうとしたり、女の子をナンパしようとしたりする。つまり、緊張感のかけらもない。そういう一行であるから、トラブルが発生するのは時間の問題といっていい。

 具体的にどんなトラブルが発生するかは、本書をお読みいただきたい。ここで紹介することが出来るのは、この旅で15歳のイーストがすこしずつ成長していくことだ。その意味で、本書はロードノベルであると同時に、一人の少年の内面の成長を描くビルドゥングスロマンだ。余韻たっぷりのラストが味わい深い。いい小説だ。

(早川書房 920円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  2. 2

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  3. 3

    嶋基宏は一時期ノイローゼ状態になっていた...心ここにあらずで、魂が抜けた状態に

  4. 4

    伊藤健太郎とキンプリ永瀬廉で明暗クッキリ…「熱愛報道」出口夏希の足を引っ張りかねない“イメージ格差”

  5. 5

    なぜ「愛子天皇」ではダメなのか? 美智子さまが心情を吐露する出版物を準備中…と政界で話題

  1. 6

    嵐が去る前に思い出す…あの頃の「松本潤」と「大野智」

  2. 7

    視聴率の取れない枠にハマった和久田麻由子アナの不運 与えられているのは「誰でもできる役割」のみ

  3. 8

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  4. 9

    居酒屋倒産が過去最多ペース 客離れの背景にある「飲み放題5000円」の壁

  5. 10

    巨人“育成の星”のアクシデントに阿部監督は顔面硬直、原辰徳氏は絶句…桑田真澄氏の懸念が現実に