25年ぶりに吹奏楽部員が再結集したが…
「ブラバン」津原泰水著 新潮文庫 670円+税
ある曲を聴くと、それがはやっていた時代がまざまざと蘇るというのは誰しも経験することだろう。それほど時代と音楽は密接に結びついているわけで、音楽小説も特定の時代を設定したものが多い。本書の舞台は、「大麻を隠し持って来日したポール・マッカートニーが一曲も演奏することなく母国に送還され、イラン・イラク戦争が勃発し、カープが日本シリーズでバファローズに勝利したかと思えば、師走にはジョン・レノンが狂信的ファンに射殺された」1980年。
【あらすじ】県立高校に入った他片等は、ひょんなことから吹奏楽部に入部することになる。担当は弦バスことコントラバス。入部のそもそものきっかけをつくったのは同じクラスの皆元優香だった。
それから四半世紀。東京の大学へ行ったものの、地元に戻ってバーの経営者となった他片は、やはり地元で雇われマダムをやっていた皆元が交通事故で死んだことを知る。
そこから止まっていた時間が動き出す。1年先輩で密かに憧れていた桜井ひとみが他片の店に現れ、今度結婚することになり、ついては、かつての吹奏楽部の連中を再結集して披露宴で演奏して欲しいというのだ。他片は桜井と2人で今は散り散りになってしまった当時の部員に連絡を取り始めるが、四半世紀という時は、それぞれに思いもかけぬ変化をもたらしていた……。
【読みどころ】著者自身の自伝的作品なだけに、主人公が高価なベースギターを買ってもらった時の喜びようなどは実にリアルだ。まだバブルには間があり、吹奏楽部が全国的に注目されてはいない、そんな時代の地方の高校生の生態がほろ苦い思い出とともに描かれている。 <石>