青春の蹉跌をほろ苦く描いた名作

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「春の嵐」ヘルマン・ヘッセ著、高橋健二訳 新潮文庫 490円+税

 ヘルマン・ヘッセはその生涯に数多くの詩を残している。そしてその詩に曲がつけられた歌曲も多く、800曲以上の歌詞となっている。ヘッセ自身、そうした歌曲に対しての評価についてはあくまでも中立的な態度を守ったそうだが、本書には、主人公が気に入った詩にインスピレーションを受けて歌曲を創作する場面が登場する。

【あらすじ】主人公のクーンは、5、6歳の頃から、自分は「音楽によって最も強くとらえられ支配されるように生まれついている」ことを知る。その確信に沿って音楽大学へ進むのだが、飛び抜けた才能を発揮することなく、愉快な学生生活を送っていた。

 そしてある冬、心を寄せていた女性の挑発に乗って、心ならずも急な坂をそりで滑り降りることになった。危惧していた通りそりは転倒し、クーンは足に大けがを負ってしまう。足は不自由となり、孤独のなかで喘ぎながらも、一度はあきらめかけていた音楽の道をふたたび目指すことに。ある詩に曲をつけてみたところ、気鋭のオペラ歌手、ムオトがその曲を気に入ってくれ、作曲家としての前途が開ける。

 次にクーンはオペラに挑戦するが、その創作過程でゲルトルートという運命の女性に出会う。ゲルトルートに焦がれながらも自分に自信を持てないクーンは、なかなか気持ちを言い出せない。そんな2人の間にムオトが現れ、ゲルトルートは彼に引かれてしまう。それを悟ったクーンは、きっぱりと身を引くのだが……。

【読みどころ】ムオトとの友情、ゲルトルートへの愛情、この2つに引き裂かれる主人公は、一見哀れであるが、音楽というミューズに仕えた彼はこの苦境も見事に乗り越えていく。青春の蹉跌をほろ苦く描いた名作。

<石>

【連載】音楽をめぐる物語

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