神秘的な「録音」の背後にあるおぞましい秘密

公開日: 更新日:

「ムジカ・マキーナ」高野史緒著 ハヤカワ文庫880円+税

 音楽をテーマにしたSFというと、オースン・スコット・カードの「ソングマスター」やキム・スタンリー・ロビンスン「永遠なる天空の調」などがあるが、史実を下敷きに歴史改変SFに仕立て上げたのが本書。第6回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となり、惜しくも受賞は逃したが、大きな注目を集め単行本化されたもの。

【あらすじ】1870年、普仏戦争の外交交渉のためにウィーンを訪れていた北ドイツ連邦のベルンシュタイン公爵は、ウィーンの音楽家たちの間でひそかに《魔笛》と呼ばれる麻薬が流行しているという噂を耳にする。聴覚からの刺激を快感に変える麻薬で、これを飲んで音楽を聴くと素晴らしい悦楽を得られる。

 その薬効は、かつて公爵がある科学者に作らせた《イズラフェル》とそっくりだった。しかも《魔笛》の常用者は、いずれも《プレジャー・ドーム》という舞踏場の常連だった。悪いことに、理想の音楽を希求する公爵が目をかけていた若き音楽家フランツも《プレジャー・ドーム》に取り込まれてしまったのだ。ロンドンに行ったフランツは、《ムジカ・マキーナ=音楽機械》という組織が有する神秘的な技術の「録音」に魅了されてしまうが、その背後にはあるおぞましい秘密が隠されていた……。

【読みどころ】《魔笛》と《ムジカ・マキーナ》にはどのようなつながりがあるのか、そして《ムジカ・マキーナ》が目指している真の目的とは何か。時に未来からの時間が嵌入しながら不可思議な世界が展開していく。

 このデビュー作以後、著者は独自の世界を創り上げてきたが、江戸川乱歩賞受賞作「カラマーゾフの妹」は、歴史改変ならぬ見事な古典改変として高い評価を得た。

 <石>

【連載】音楽をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「マラソン」と「大腸がん」に関連あり? ランナー100人への調査結果が全米で大きな波紋

  2. 2

    “マトリ捜査報道”米倉涼子の圧倒的「男運」のなさ…海外から戻らないダンサー彼氏や"前科既婚者"との過去

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    大阪・関西万博「最終日」現地ルポ…やっぱり異常な激混み、最後まで欠陥露呈、成功には程遠く

  5. 5

    米倉涼子“自宅ガサ入れ”報道の波紋と今後…直後にヨーロッパに渡航、帰国後はイベントを次々キャンセル

  1. 6

    アッと驚く自公「連立解消」…突っぱねた高市自民も離脱する斉藤公明も勝算なしの結末

  2. 7

    新型コロナワクチン接種後の健康被害の真実を探るドキュメンタリー映画「ヒポクラテスの盲点」を製作した大西隼監督に聞いた

  3. 8

    巨人の大補強路線にOB評論家から苦言噴出…昨オフ64億円費やすも不発、懲りずに中日・柳&マエケン狙い

  4. 9

    元体操選手の鶴見虹子さん 生徒200人を抱える体操教室を経営、“アイドル”も育成中

  5. 10

    地上波連ドラ3年ぶり竹内涼真に“吉沢亮の代役”の重圧…今もくすぶる5年前の恋愛スキャンダル