「ビンボー白人」もエリート層も楽しめる娯楽作

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 現代の映画ビジネスは巨大化し過ぎて失敗できない。湯水のように資金をつぎ込むのは中国ぐらいで、アメリカでさえコスト管理は厳しい。それゆえ冒険はできず、才人監督はやる気をなくしてプロデューサーの「お仕事」に引きこもる。その典型が「トラフィック」でアカデミー賞を得たS・ソダーバーグだが、足かけ4年ぶりの彼の監督復帰作が現在公開中の「ローガン・ラッキー」だ。

 面白いのは、基本プロットがヒット作「オーシャンズ11」シリーズとそっくりなこと。八方ふさがりの男が仲間と現金強奪を計画。突破不可能なセキュリティーの裏をかいてまんまと大成功というのは明らかに「どこかで聞いた話」だが、大きく違うのが盛りつけ。「オーシャンズ」はラスベガスの金ぴかカジノの話だが、こちらは「トランプ支持者」という言葉が似合う貧乏白人の世界なのだ。

 チャニング・テイタムという芸達者な元ヌードダンサー男優をうまく使い、ソダーバーグの得意技で「ワイルド・スピード」派の客層に食い込む巧みな市場開拓力。なるほどこうやって「ビンボー白人」も彼らを小バカにするエリート層も気軽に楽しめる現代の“痛快娯楽作”の活路を開いたわけだと、しばし感嘆させるのである。

 今回の現金強奪先はインディ500以上にアメリカで人気のNASCAR(ナスカー)の自動車レース場。ピート・ダニエル著「失われた革命」(青土社 3600円)は公民権運動史の生真面目な歴史家の本だが、NASCARの原形になった田舎の草レースが生まれた文化風土を印象的に描いた好著である。

 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

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