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「米中戦争前夜」グレアム・アリソン著 藤原朝子訳

 トランプ政権の対北朝鮮高圧外交の陰で「米中もし戦わば」の危機が高まりつつある。その先に控えるのが「第2の太平洋戦争」だ。


 米ハーバード大の国際政治学者にしてレーガン政権からオバマ政権まで国防長官の顧問もつとめた著者。2015年に米中戦争の可能性を議論した論文で大きな波紋を呼んだ。発表当時は米中衝突を不可避としたとして物議を醸したが、本書では古代ギリシャのスパルタとアテネの教訓を説く「トゥキディデスの罠」が米中間に起こり得るという。

 覇権国スパルタに挑戦する新興国アテネ。スパルタは軍事対決に慎重だったが、周囲の同盟国がアテネとその同盟諸国の勢いに動揺し、スパルタをそそのかして戦争へ突入。結果としてペロポネソス戦争は30年にわたり、双方大打撃を受けたまま古代ギリシャ文明の黄金時代は一気に斜陽化したのである。

 著者はこの教訓をふまえ、英独戦や日米戦などの歴史を再点検。長期的な戦略を軽視しがちな現代の政治家を批判しキューバ危機の時のケネディ大統領に学べと説く。単なる目先の利益と国益は違う。相手の意図をしっかり読み、戦略を練り、派手な外交で得点するのではなく国内問題の解決に焦点を置く。いずれもトランプ大統領には難題に見えるところが心配だ。

(ダイヤモンド社 2000円+税)

「主権なき平和国家」伊勢﨑賢治、布施祐仁著

 憲法改正を「最大の政治課題」に挙げながら沖縄の基地問題には素知らぬ顔の安倍首相。しかし憲法改正の前に日本国民が(保革いずれだろうと)一致して解決に当たらないといけないことがある、と本書は巻頭でいう。それが「日米地位協定」の改定。沖縄で米軍の「軍属」が犯罪を犯しても逮捕できない。それは日米地位協定の定める「軍属」が米軍と直接の雇用関係のない者まで曖昧に含まれるから。NATOの地位協定などとは大違いの不平等条約なのだ。

 本書は元国連PKOの日本政府特別代表としてアフガンの武装解除を担当した「紛争屋」とジャーナリストが、各国の地位協定を比較し、日本の防衛問題の核に切り込む。

(集英社クリエイティブ1500円+税)

「日中開戦 2018」渡邉哲也著

 現在の東アジアは日・中・韓・ロ・米・北朝鮮と6カ国が入り乱れるパワーゲームの戦場。仮に北朝鮮が崩壊すれば大量の難民が中ロに押し寄せるのは必定。そこで中ロが国境封鎖などすれば国際的非難は免れない。

 他方、玉突き状態で韓国からの亡命者が日本になだれ込む可能性もある。著者はロシアと取引し、北方領土に難民収容所をつくり、そこで審査に合格した者だけ入国を許可すればよいと提案。また、沖縄問題で中国が介入してくるのを避けるため、沖縄を東京に編入すれば累積する諸問題も解決しやすいと主張する。2ちゃんねる出身の政治コメンテーターらしい発想か。

(祥伝社 1400円+税)


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