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最新ノンフィクション特集

「迷宮探訪」北芝健/監修 谷口雅彦/写真 「週刊大衆」編集部・編

 世間を震撼させ、怒りを禁じえない事件や事故の真相、知られざる現代社会の陥穽、罪深き人間の所業に肉薄したノンフィクション本を特集。長きにわたり、心血を注いできた書き手の渾身を肌で感じる作品も。見えてくるのは人間の業か。

 時効撤廃(1995年)以降の殺人事件や、今も捜査が続く失踪事件を元警視庁刑事がプロファイリング。

 世田谷一家殺害事件、八王子スーパー強盗殺人事件は闇組織のプロフェッショナルによる犯罪の可能性を示唆。目撃情報や多数の証拠、被害者の人間関係などに警察が翻弄され、捜査が後手に回ったという見解も。女子高生が殺害される事件も実に多い。しかも犯人は捕まっておらず、シリアルキラーが野放し状態という現実も浮き彫りにされる。

 最もやるせないのは被疑者死亡の事件だ。ストーカー規制法成立の機となった桶川ストーカー事件、島根女子大生バラバラ殺人事件に関しては、警察の杜撰さや不手際、隠蔽体質を指摘。犯人への怒りだけでなく、警察組織が抱える闇にも言及している。捜査現場の刑事は激務で疲弊、検挙率などの点数主義が横行する実態も描かれる。

 事件現場の現在のカラー写真付き。(双葉社 1400円+税)

「だから、居場所が欲しかった。」水谷竹秀著

 30~40代の日本人がタイ・バンコクのコールセンターに集まっている。学歴も語学力も性別も不問。月給は3万バーツ(約9万円)だが、物価の安いタイではなんとか生活できる。一生安泰ではない。厳しい現実も待ち受けている。著者はフィリピンの困窮邦人を取材し、開高健ノンフィクション賞を受賞した作家だ。

 息苦しい日本からアジア各国へ移住した人の心模様と現実を追う。日本では非正規雇用で、派遣先を転々とし、たどり着いたのがコールセンターだったという人も多い。向上心をもって語学を習得し、起業に至った成功者もいる。ゴーゴーボーイに貢ぐ女性もいれば、ホームレス寸前に堕ちた男性もいる。性的マイノリティーが暮らしやすいという話もあるが、実際には就業面で明らかな差別が存在する。人によって明暗が分かれるのが実情だ。居場所を求めてタイに渡った人も多いという。

「心の優しい人間は日本社会で生き続けるといつか壊れてしまう。それほど日本社会は病んでいる」という著者の言葉が重く響く。(集英社 1600円+税)

「大学病院の奈落」高梨ゆき子著

 2011~14年の間、群馬大学病院で腹腔鏡による肝臓手術を受けた患者のうち、8人が死亡。執刀医はいずれも同じ医師で、本来は術前に必要な倫理審査も申請していなかった。新聞報道で明らかになった医療事故の真相を追った医療ノンフィクション。

 読むと、大学病院で手術を受けるのはやめようと思わざるをえない。病院側は遺族に何の説明もなく、深刻な医療事故に必須の調査もせず。技術も経験も低い医師が執刀した背景には、大学内部の政争による教授の指示と、病院側の隠蔽があったというのだから怒り心頭だ。

 さらに、その後の調査で、消化器外科全体の死亡50例にも手術適応の診断や術後管理などに不備が指摘された。杜撰な医療で人命を軽視した病院は、院長と教授、執刀医に軽微な処分で幕引きしたという。

 著者は遺族の言葉に耳と心を傾けてきた。そして専門医制度の在り方や保険適用外の先端医療の曖昧な基準にも踏み込む。こんな悲劇が繰り返されず、医療が変わると信じたい。(講談社 1600円+税)

「3650」斎藤充功著

 2002年に起きた「マブチモーター社長宅強盗放火殺人事件」の犯人のひとり、小田島鐵男を10年間取材した渾身作。07年に死刑が確定し、著者は小田島の身元引受人となるも、昨年9月に死刑執行ではなく病死という結末を迎えた。面会131回、手紙は計411通。交流を始めて3852日目だった。死刑囚と向き合った10年間、さらには取材と往復書簡で見えてきた小田島の半生をつづっていく。

 少年期から窃盗などの犯罪に手を染め、8回の刑務所服役。強盗放火殺人まで犯した小田島の半生を読む限り、反省なき極悪人としか思えない。著者も、極刑に処せられるのは当然という考えで、決して死刑廃止論者ではない。不幸な生い立ちの小田島に同情や肩入れをする姿勢も一切ない。金銭の要求もあったし、交流が断絶した時期もあった。それでも身元引受人となり、辛抱強く対峙した結果、凶悪犯の顔とは「別の顔」を見たという。死刑の実態と死刑囚の現実に迫る一冊。(ミリオン出版 1600円+税)

「路地の子」上原善広著

「コッテ牛」と呼ばれた突破者で、著者の父親・上原龍造の半生を描いたノンフィクションである。

 破天荒や豪胆という言葉では表現しつくせないほどの、迫力と魅力をもった男が怒涛の時代を生き抜いた実話だ。

 大阪府松原市の更池(現在この地名はない)は路地(部落)だった。日本でも有数の賭場で、食肉業が盛んだった更池で、龍造は生まれ育った。学校も行かず、見習をして食肉業を極めることを決意。極道から誘いを受けるほどの度胸とおとこ気は周囲から一目置かれる。肉をさばく職人修業に励み、先見の明と商才を発揮して独立(勤めた商店社長の妻を寝取る才覚も)。

 全国的に高度経済成長と部落解放運動が高揚した時代、同和地区の利権を牛耳っていた解放同盟にも入らなかった龍造。利権争いを展開していた共産党や右翼、極道をもうまく転がし、一匹狼として駆け抜け、今に至る。著者は家庭をないがしろにしてきた父親への複雑な思いも告白する。(新潮社 1400円+税)

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