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最新酒場ガイド本特集

「猫と呑み助 東京『猫呑み』のススメ」山と溪谷社 1300円+税

 居心地の良い酒場はひとつふたつ知っておきたい。ただし、そこに何を求めるか、だ。うまい肴か、希少酒の品揃えか、はたまた話の通じる美人ママか、懐に優しいコスパの良さか。家と職場以外の心安らぐ第三の場所(サードプレイス)が欲しい人に、おすすめの酒場本を紹介する。

 たまたまひとりでふらっと入った店で、あまりの居心地の良さに常連になる……は理想形だ。誰かに連れて行かれて、たちまち虜に、というケースが多いはず。ただ、やたらと常連ぶって講釈たれる輩に辟易することも。

「この店は好きだけど彼奴がいたらイヤだな」

 ところが、世の中には素晴らしき先達に導かれ、珠玉の酒場に出合える幸運な人もいる。「猫と呑み助 東京『猫呑み』のススメ」(山と溪谷社 1300円+税)の著者はるやまひろぶみ氏だ。猫が好き、酒が好きで、猫酒場を巡ることになるのだが、謎の呑み助ノウミさんとの出会いも大きい。ノウミさんは50歳前後の一見コワモテの男だ。濃くはない頭髪のてっぺんがチョロリと立っている。著者はたまたま酒場で遭遇し、意気投合。猫とダジャレが好きなノウミさんに、時には呼び出され、時には連行して、猫酒場を飲み歩く。

 空前の猫ブームにあやかって、というワケではなさそうだ。冒頭の10カ条からなる「猫と呑み助の掟」を読めば、猫の生態を最優先した気遣いが伝わる。「酒の肴をあげてはいけない」「猫語を自分勝手な解釈で翻訳しない」など、酒場にいる猫への忖度が必須だ。

 都内12軒、猫がいる酒場を訪れ、店の雰囲気を写真とイラストで紹介。店主の人柄や猫柄(?)に触れ、名物料理に舌鼓を打ち、同行者のノウミさんにツッコミを入れる。著者は酒と猫、そしてノウミさんが大好き。

 表紙で大あくびする猫は、新橋の家庭料理「てまり」のチマ。計7匹の猫が思い思いの場所に陣取り、常連客を出迎えるという。いや、出迎えるのではない。猫は自然体で暮らしているだけ。そこに客がお邪魔するのだ。

 中野の麻辣料理「豊海屋」は辛くてうまい秘伝のタレが人気だ。麻辣串焼きは確実に酒が進む。近所で保護した雌猫・タンタンが子を産み、今は計5匹が賑々しく暮らしている。雨の日はみな店内にいて、一緒に飲める確率も高いとか。

 神楽坂「広島お好み焼き広島っ子」には看板娘の美人猫・リコがいる。常連客には返事して、膝の上にも乗るという。最上級の接待をしてくれるのは、新宿ゴールデン街「4C’s BAR ROSSO」か。4匹がカウンター席に座る写真は壮観。特に長毛三毛の琥珀は営業部長として、客の膝の上をスタスタと渡り歩くことも。

 著者がクギをさすのは猫目当てだけで行くのはご法度という点だ。あくまで酒を飲み、うまい飯を食べ、その傍らに猫がいる、というスタンスを忘れるべからず。

 この本の特徴は、猫の生態や性格を酒の肴にしていると、自然と人間の浅はかさや業の深さもあぶり出されるというところ。猫に学ぶ人生教訓といってもいい。ぜひ本文中の太字部分を意識的に読んでほしい。

 人間社会にも通ずる、名言・格言に見えるから不思議だ。

「新 酒場入門」小宮山雄飛文 黒木ユタカ絵

 名店や老舗の酒場には入りづらい、という初心者にすすめたい酒場本。ほんわかしたイラストと、肩の力が抜けるゆるい文章で優しく解説。酒場を語る意気込みや鼻息の荒さはない。

「酒場はこうあるべし」と暑苦しく語っていないのがいい。

 40代のミュージシャンとイラストレーターのゆるふわ酒好きコンビが魅せる酒場巡りは、5タイプで分類。「老舗」「立ち飲み」「朝から」「ワイワイ」「食事も」と用途別でわかりやすい。なんといっても、酒場の全貌を描いた、見開きの斜俯瞰イラストが楽しい。シンプルなタッチだが、酒場の特徴や雰囲気が手に取るようにわかる。酒を飲んでいると、店の構造が頭に入ってこないことも多いが、この本を見れば一目瞭然。

 大箱なのに気配りが完璧な中野「第二力酒蔵」、日本酒がセルフで飲み放題というシステムが特殊な新宿「やまちゃん」など、気負わず飲める酒場も多く紹介。

(マイナビ出版 1480円+税)

「東京ヤミ市酒場」フリート横田著

 狭い一角に極小飲み屋が密着して連なる場所。この魅惑的な感じは、戦後のヤミ市から来たという。文筆家で路地徘徊家の著者が、首都圏のヤミ市酒場をくまなく巡る。区や市が編纂した地図や資料本を緻密に調べるデスクワークのあと現地へ赴き、酒を飲み、歴史の証人となるキーパーソンに徹底取材。頭も足も駆使した真摯な酒場本である。

 新橋、新宿、渋谷など大都会の酒場をはじめ、溝口や横須賀にも足を延ばす。戦後の混乱期、ヤミ市の空気感を知る人々はすでに高齢だ。著者は、名物ママや常連客の相好を崩す得意技を持っている。また、数少なくなった語り部を引き寄せる運も持っているようだ。

 昔の混沌が垣間見える写真や現在の写真も満載だが、黒地秀行氏の点描イラストが昭和初期の雰囲気を醸し出す。実に味わい深い。

 新宿センター街、野毛エイトセンター、船橋仲通りなどマニアックな地も巡る。

 酒場の歴史を知ってから飲む酒はひと味違うはずだ。

(京阪神エルマガジン社1600円+税)

「きょうも、せんべろ」さくらいよしえ文 河合克夫漫画

 1000円でべろべろになるだけが「せんべろ酒場」ではない。飲んべえの著者が叩きつける条件は「酒が1杯300円前後で飲める」「冷やしトマトがちゃんと1個分出てくる(ケチじゃない)」「大瓶ビールが500円程度(400円台だと最高)」「激安焼酎を使わない」。男前で潔い文章、店にこびない取材で紹介するのは計32軒の選ばれし酒場だ。

 店主の趣味、その家族の背景、愛すべき酔客を絶妙な表現で描写する。毒も盛りつつテンポよく読ませる。よくある酒場本の、褒めるだけでプライド高そうな男の書き手とは異なり、著者はすがすがしく無頼派だ。そして、まごうことなき酒飲み。同行する男性漫画家はなんと下戸。下戸だからこその遠慮のない表現が秀逸だ。

 彼らを信じるならば、立石「倉井ストアー」のチャーシュー、森下「三徳」の純レバ、巣鴨「ときわ食堂」のアジフライあたりは、嘘偽りなくうまいに違いない。

(イースト・プレス 1000円+税)


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