大人のための言葉本

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「大人のための言い換え力」石黒圭著

 ちょっと漏らした一言が、あっという間に炎上事件に発展する昨今、世知辛い世間をスマートに渡っていきたいなら、大人言葉のマスターが欠かせない。そこで今回は、思っていることの半分も言葉にできずにごくりとのみ込んでしまう諸兄に効く、大人のための言葉本4冊をご紹介!



 こんなふうに言ったら誤解されないだろうか、言いにくいことを遠回しに書いたメールで真意は伝わるだろうか……などなど、社会人にとって、何をどのように表現するかは日常的な大問題だ。

 石黒圭著「大人のための言い換え力」(NHK出版 820円+税)は、日々そんな問題に直面している人に向けて、一生ものの「言い換え力」を身に付けるための方法を提示した実用本だ。

 言い換えには、大きく分けて「ぴったり」と「ゆったり」の2つの方向性があるのだという。「ぴったり」とは、より正確に、よりダイレクトに、よりシンプルに表現することを目指し、「ゆったり」とは、より柔らかく、イメージ豊かで、おだやかに表現することを目指す。

 ビジネス上「ぴったり」表現しなければならないこともあるものの時には息苦しくなりがちで、逆に「ゆったり」は楽に感じるものの、それだけでは緩く、だらしない印象を与えてしまう。どんなジャンルの、どんな内容を、どんな相手に届けるのかを考えた上で、TPOに合わせた言い換え方を選択することが肝心なのだ。

 例えば、ダイレクトに表現すると生々しさがある場合やプライバシーを守りたい場合には、ソフトな言い換えをする。

「飛び込み自殺」は「人身事故」に、「葬儀場」は「メモリアルホール」に、「人けのない住宅街」は「閑静な住宅街」に、「生理痛」は「体調不良」に言い換える。逆に、問題点に注意を向けさせたり、社会問題を喚起したいときには、より直接的な言い方に変換される。

健康のため吸いすぎには注意しましょう」は「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つになります」と表現され、「悪徳業者が生活保護費を天引きする」の「天引き」は、「ピンハネ」「中抜き」「搾取」などの言葉に換えられる。具体例がたくさん紹介されているので、いざというときにさっと使えるように、本書を読んで言葉の引き出しを増やしておきたい。

「万葉ことば」上野誠著

「単純明快で分かりやすい」表現が求められる昨今、味気ない言葉遣いが横行して、人々の思考もどんどん薄っぺらくなっている。

 今の日本に求められているのは、深みのある思考をするための深みのある言葉なのではないか。そう考える著者が、深みのある思考をするためのツールとして、8世紀に日本に生きた人々の声が収められている「万葉集」で使われている「万葉ことば」を紹介したのがこの本だ。4516首、20巻から成る「万葉集」をひもとけば、豊かな日本語の世界の一端に触れることができる。

 例えば、「よばひ」という言葉は「呼び合う」という意味で、これは互いの名を明かして名前を呼び合う仲になったこと、つまり男が女と共寝できる権利を手にし、しかもまだ結婚しないという選択肢も残されている状態を指すのだという。体を伏せて這って女のもとにいくから「夜這い」だという説は間違っているらしい。万葉ことばを知ることで、そこに秘められたさまざまな感情や文化も見えてくる。(幻冬舎 1100円+税)

「悩める君に贈るガツンとくる言葉」石原壮一郎著

 ままならない世の中、さまざまな苦悩を抱え八方ふさがりになったとき、古今東西の賢者41人が発した言葉の中に、現状を打破する視点を探してみてはいかがだろう。

 本書は、若きサラリーマンが直面しがちな悩みに対し、ガンジー、アントニオ猪木田中角栄、岡本太郎、スティーブン・キングら、バラエティーあふれる面々が発した名言の処方箋を紹介したもの。

「上司に愛想をつかされた。お先真っ暗だ」と絶望する29歳のサラリーマンの悩みには、東日本大震災時に壊れかけた建物から救出された只野昭雄さんの言葉を紹介。岩手県大船渡市で旅館を経営していた彼が3日ぶりに自衛隊に救助されたとき、テレビカメラに向かって発したのは「大丈夫です! チリ津波んときも体験してっから。大丈夫です!また再建しましょう」という言葉だった。

 有名人のみならず、市井の人々の言葉のパワーも糧にして、狭い視野から脱却する必要性を指摘している。(バジリコ株式会社 1200円+税)

「日本語のへそ」金田一秀穂著

 効率第一主義の昨今、より安く、より早く、より簡単なものばかりが求められ、コストパフォーマンスで優先順位が決まりがちだ。しかし、そんな世の中だからこそ、それだけを追求する生活だと、心が折れる。効率主義はAIに任せて、人間に今必要なのは言葉の無駄遣いではないだろうか。本書は、一見無駄なようで、実は重要な役目を担う「へそ」的な存在としての日本語の力に光を当てた一冊だ。

 日本語の一人称は、「私」「僕」「オレ」「わし」「うち」「あちき」「拙者」といった具合に、無駄に数が多い。しかし、その多様な表現によってキャラクターや階層、時には職業までも想像することが可能になる。また、言葉は情報交換の道具である一方で、嘘をつくための道具でもあり、人と人がつながるためのツールでもある。だからこそ、意味のない会話を続けること自体が大切になってくると著者は言う。

 マスコミにあふれる謝罪の言葉や、ヘイトスピーチなどの最近の言葉問題についても言及。本書を通じて、日本語の不思議さ、面白さが見えてくる。(青春出版社 880円+税)

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