「パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市」中井治郎著/星海社新書(選者:稲垣えみ子)

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SNS映えへの執着が現実世界をハリボテ化していく

「パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市」中井治郎著/星海社新書

 先日、行きたい演奏会があり久方ぶりに京都へ。で、会場近くの京都河原町駅を降りた瞬間心底驚愕。そこに、かつて会社員時代に勤務した憧れの場所はなかった。よそもんは心して向きあわねばならぬ誇り高き町は、Tシャツ短パンで飲み物片手にキャリーケースを引く外国人観光客に「占拠」されていた。そこはもはや京都ではなく観光用テーマパークのようであった。

 なるほどこれが、世界で問題になっているオーバーツーリズム! これは思った以上に大変なことであると問題の背景を知りたく、ネット検索で購入したのが「観光公害入門」とうたわれたこの本である。

 東京五輪前の刊行なのでデータは古いが概要はわかる。海外旅行客が世界的に増える中、経済的にパッとせぬ我が国の政府が「そうだ観光で儲けよう」と円安やビザ要件緩和でエンジンを吹かしたら、誰も予想せぬ勢いで訪日客が激増。最前線となった京都では人口150万人の街に年間5000万人が押しかける非常事態となり、宿泊施設乱立、地価上昇、景観破壊、ゴミ捨てなどの迷惑行為が住民の暮らしを脅かすこととなった。儲け話には代償アリ。だが現実を見るにつけ、はるばる憧れの地にやってきた観光客自身がその地を「消滅」させているので誰も得してない。代償がデカすぎる。

 問題の根本が自由な経済活動なので特効薬などあるはずもないが、本書最大の読みどころは観光公害の最前線で奮闘する京都人のインタビューで、その誠実さと奮闘ぶりには頭が下がる。ああ京都は消滅しちゃいなかった!

 だが事態は楽観できない。本書で私が最も衝撃を受けたのは祇園ルポ。一般人は近づくことすら緊張した場所は今やスニーカーにリュックの外国人であふれ、彼らは「泣く子も黙るお茶屋」の店先のものを勝手に触って写真を撮り、店先に座って休憩。「そんなことしたら大変なことになるで!」という著者の心の叫びがむなしい何の悪意も覚悟もない狼藉ぶりだ。原因はSNS。

「観光客の目的は祇園を体験することではなく、『祇園らしい画像』を自らのアカウントにアップすることであるし、逆にそれができなければ祇園に来た意味がないと感じるからこそ、彼らは舞妓を追いかけて必死に走る」

 これこそが、私が今回京都で感じた違和感のもとであるように思えた。SNSがもたらす、目の前の人間、目の前の場所に対する無関心、敬意のなさが現実世界をハリボテ化していく。京都の問題は全く他人事じゃないのだ。 ★★半


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