著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「騎虎の将 太田道灌」(上・下) 幡大介著

公開日: 更新日:

 江戸城を造った男、太田道灌を描く長編である。物語の背景となるのは、関東管領山内上杉憲忠の暗殺から始まる享徳の乱だ。要するに関東を舞台にした武士たちの覇権争いである。

 足利幕府は京にあり、将軍もそちらにいるので、関東の差配は武士に委ねられる。これが一枚岩なら問題ないのだが、複雑な歴史と思惑が入り乱れ、全然まとまらない。かくて始まる戦乱が、28年にも及ぶ享徳の乱である。戦国時代の端緒にもなったといわれている戦乱だ。その人間関係は複雑で入り組んでいるが、本書はそれを要領よく平易に描いていくので、どんどん物語に引き込まれていく。うまいなあ。

 当時の風俗習慣なども克明に語られるので情報小説として面白いことも特筆ものだ。例えば関東の農地の大半は荘園で、その年貢を京に運ぶために武士階級が生まれたとか、戦時には荘園を守るために年貢の半分をもらうことができたとか、次々に出てくるので興趣が尽きない。

 しかしそれよりもなによりも、物語の中心にいる太田道灌がいい。戦略の天才で、魅力あふれる男なのだ。さらに、戦場シーンも鮮やかだから目を離すことができない。太田道灌は上杉家の当主ではなく家宰にすぎなかったので自由な戦闘ができず、そこにこの男の悲劇があったのだが、そのためにこの長編に奥行きが生まれていることも見逃せない。快著だ。(徳間書店 各2000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本中学生新聞が見た参院選 「参政党は『ネオナチ政党』。取材拒否されたけど注視していきます」

  2. 2

    俺が監督になったら茶髪とヒゲを「禁止」したい根拠…立浪和義のやり方には思うところもある

  3. 3

    上野樹里“ガン無視動画”にネット騒然! 夫・和田唱との笑顔ツーショットの裏のリアルな夫婦仲

  4. 4

    巨人・阿部監督に心境の変化「岡本和真とまた来季」…主砲のメジャー挑戦可否がチーム内外で注目集める

  5. 5

    松下洸平結婚で「母の異変」の報告続出!「大号泣」に「家事をする気力消失」まで

  1. 6

    松本潤&井上真央の"ワイプ共演"が話題…結婚説と破局説が20年燻り続けた背景と後輩カップルたち

  2. 7

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」

  3. 8

    参政党トンデモ言説「行き過ぎた男女共同参画」はやはり非科学的 専業主婦は「むしろ少子化を加速させる」と識者バッサリ

  4. 9

    松本潤「19番目のカルテ」の評価で浮き彫りに…「嵐」解散後のビミョーすぎる立ち位置

  5. 10

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ