著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「アルテミス」(上・下) アンディ・ウィアー著 小野田和子訳

公開日: 更新日:

 人類初の月面都市「アルテミス」を舞台にした長編である。従ってSFではあるけれどミステリーの読者にも読んでもらいたい。これはそういう長編だ。

 なぜなら、メインストーリーが、ある破壊工作だからである。主人公は非合法の運び屋稼業をしている女性ジャズ。依頼された破壊工作のために彼女が集めたのはその道のプロばかり。たとえば、ずっと仲たがいしていた父親もジャズが頭を下げて参加してもらうのだが、この父親は溶接のプロ。他にも船外活動のプロに、電子機器のプロ。彼らが困難なミッションに取り組む姿をテンポよく描いていくから、いやあ、面白い。

 宇宙における冒険を描く小説であるので、やや専門的な用語が頻出するが、なあに、わからないところは飛ばせばいい。それでも彼らが直面する困難(この手の小説の定石通り、アクシデントが次々に起こり、それらをどう乗り越えていくかが読みどころである)と、解決までのサスペンスは十分に味わえるだろう。

「アルテミス」の女性統治官グギ、保安部のボスでいつもジャズを見張っているルーディなどの個性的な脇役もなかなかによく、さらにアクションの切れもいいから一気読み。

 アンディ・ウィアーはWEBで公開した「火星の人」(映画化のタイトルは「オデッセイ」)で一躍有名になった人で、本書が2作目。作者はこの「アルテミス」を舞台にしたシリーズを考えているとのこと。それもまた楽しみだ。(早川書房 各640円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    名球会入り条件「200勝投手」は絶滅危機…巨人・田中将大でもプロ19年で四苦八苦

  2. 2

    永野芽郁に貼られた「悪女」のレッテル…共演者キラー超えて、今後は“共演NG”続出不可避

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    07年日本S、落合監督とオレが完全試合継続中の山井を八回で降板させた本当の理由(上)

  5. 5

    巨人キャベッジが“舐めプ”から一転…阿部監督ブチギレで襟を正した本当の理由

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    巨人・田中将大が好投しても勝てないワケ…“天敵”がズバリ指摘「全然悪くない。ただ…」

  3. 8

    高市早苗氏が必死のイメチェン!「裏金議員隠し」と「ほんわかメーク」で打倒進次郎氏にメラメラ

  4. 9

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  5. 10

    三角関係報道で蘇った坂口健太郎の"超マメ男"ぶり 永野芽郁を虜…高畑充希の誕生日に手渡した大きな花束