著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 迫力満点の山岳小説だ。面白さがぎっしりとつまった長編だ。

 このジャンルには新田次郎という偉大な先達がいて、20年ほど前には、夢枕獏の「神々の山嶺」という超傑作もある。しかし、それらに続く一群があるかというと、はなはだ心もとない。我が国におけるジャンルとしては、まだ未成熟のジャンルなのである。その荒野をいま馳星周が突き進む。

 主人公は、元山岳遭難救助隊員の得丸志郎。山に登る仕事がしたくて長野県警に入り、山岳救助隊員となったものの、交番勤務を命じられて退職。いまは北アルプス北部地区遭難対策協議会で働いている。その得丸が、大学山岳部時代の友である警視庁公安部の池谷博史を連れて冬の白馬を越えていくのが本書のメインストーリーだ。

 得丸は現役の“山屋”だが、池谷は山から離れて長いので体力がなく、それだけでも大変なのに、池谷は警察に追われている。さらに低気圧に襲われて猛吹雪。随所に挿入されるのは、山に恋して、みんなで過酷な登山をした大学時代の回想だ。K2に消えた天才的なクライマー若林純一(彼も山岳部の同期だ)との友情と競争の風景が、夢と希望にあふれた青春の日々が、いまの苦い現実の裏に張りついている。この構成もいい。

 他にも幾つか読みどころがあるが(目頭が熱くなった箇所は秘密だ)、それは読んでのお楽しみにしておきたい。

 (光文社 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    Netflixで話題「古畑任三郎」 伝説の神回《動機の鑑定》に描かれる古美術界のリアリティーに迫る

  2. 2

    メジャー屈指の不人気球団が佐々木麟太郎を指名…“銭ゲバ”マーリンズの黒歴史

  3. 3

    関根勤「枕営業」証言の衝撃…マリエ『すべてはつながっています』発言の真意

  4. 4

    活動終了「嵐」メンバー「消える人」と「生き残る人」…“一番先行きが厳しい”のは?

  5. 5

    高市早苗が「2025年のバカ」第1位!不名誉トップ10に麻生太郎、“ウンコにタカる銀蠅議員”らがランクイン

  1. 6

    ビートルズよりもストーンズよりもすごいバンド、ラトルズ!

  2. 7

    高市首相2カ月ぶり党首討論「嘘と居直り」のデタラメ60分…国民民主に猫なで声、公明には高圧

  3. 8

    高市早苗氏が地元奈良でブチかました“敵前逃亡”…挙げ句に吐いた苦しすぎる“言い訳”

  4. 9

    ドジャース大谷翔平“満身創痍”の深刻度…本人が「ムリ」と判断し前半戦最終登板と球宴を回避

  5. 10

    シングル盤を寄せ集めたB面がマジカルで実に楽しい