著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 うまいな、額賀澪。大学の卒業制作の映画を撮ることができるのは、たった1人。監督志望の安原と北川は、シナリオコンペで対決する。どちらが勝つかはすぐに明らかになるが、一応読んでのお楽しみにしておく。勝った方(つまり監督になる方だ)は、負けたやつに「プロデューサー、やってくれないかな」と頭を下げて撮影が始まっていく。

 監督志望で、コンペで負けて、そしてプロデューサーになるのだ。当然、彼には鬱屈した思いがある。嫉妬がある。そういう心理的な葛藤がある。監督になる友人との間もぎこちないだろう。その微妙な心理を描いていき、しかし一緒に映画を撮ることで2人の友情はふたたび復活していく――こういう話になるのかな、と思っていた。

 もしそうであるなら、少しばかり退屈だ。ちらりとそう考えてしまったことを反省する。額賀澪がそんな話を書くわけがないのだ。生意気な役者との対決などをはじめとして映画制作のさまざまなドラマを克明に描いてたっぷりと読ませるけれど、真にすごいのはラスト。映画は一応の完成を見せるけれど、それでもこの長編は終わらないのだ。ラスト20ページが圧巻。ここで一気に感動がこみ上げる。

 こういう突然の盛り上げ方が、額賀澪は天才的にうまい。そこまでの制作のディテールも読ませるのだが、ラスト20ページでギアをもう一段階上げると言えばいいか。青春小説の傑作だ。 (講談社 1400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    和久田麻由子の日テレ新番組は厳しい船出…《NHKだったから良かっただけのアナ》とガッカリの声

  2. 2

    国会前デモ「ごっこ遊び」揶揄で炎上の高市チルドレン門寛子議員 被害者ヅラで取材依頼書さらし“火に油”

  3. 3

    Adoの初“顔出し”が話題 ミステリアス歌手の限界と20年非公表の「GRe4N BOYZ」との違い

  4. 4

    TBS「テレビ×ミセス」のスマスマ化で旧ジャニ不要論が加速 “体を張るイケメン”の専売特許は過去のもの

  5. 5

    目黒蓮のGW映画もヒット確実も…新「スタート社の顔」に潜む “唯一の落とし穴”

  1. 6

    「自転車1メートル規制」で渋滞発生 道路交通法改正とどう付き合うべきか

  2. 7

    中居正広氏の公式サイト継続で飛び交う「引退撤回説」 それでも復帰は絶望的と言われる根拠

  3. 8

    嵐の大野智と相葉雅紀、二宮和也が通信制高校で学んだそれぞれの事情

  4. 9

    宮舘涼太は熱愛報道、渡辺翔太はSNS炎上、目黒蓮は不在…それでもSnow Manの勢いが落ちない3つの強み

  5. 10

    佐々木朗希に芽生えた“かなりの危機感”…意固地も緩和?マイナー落ち、トレード放出に「ヤバいです」