著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 第21回の日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作である。ハードボイルドである。この新人賞受賞作で、ハードボイルドで、女流作家ということで、第10回の海野碧著「水上のパッサカリア」を連想するのは当然だ。問題はあの傑作に匹敵するのかということだが、十分に健闘している。

 新宿・歌舞伎町の風俗店でセキュリティーを担当しているコウは、店の金を持ち逃げした、淫乱で狡猾な美少女ユコを連れ戻すことを、店を仕切る元情夫に命じられる。それがこの長編の発端だ。

 そこからどういう物語が始まっていくのかは、読んでのお楽しみにしておく。ここに書くことが出来るのは、これが逃亡と戦いの物語だということだ。追ってくるものからヒロインは必死に逃げ続けなければならない。しかし大事な人を守るためなら戦いも辞さない。コウは強く、たくましいヒロインだ。家庭の愛に恵まれず、教育を受ける機会も剥奪されたヒロインが、弱者をいたぶる悪党たちと戦う姿は美しい。

 物語の大半は1993年の出来事だが、2017年の「現在」が短く何度も挿入される構成もいい。その「現在」でコウは、桜子という少女から「おばさん」と呼ばれている。では、コウは無事に逃げきったということだ。しかしこの桜子とは誰なのだ。「現在」がわかっても、サスペンスが減じるどころか、むしろ盛り上がっていることに留意。新人のデビュー作とは思えないほど、うまい。(光文社 1500円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐藤二朗vs橋本愛騒動が直撃! フジドラマ“出たくない俳優”&“見たくない視聴者”の二重苦

  2. 2

    趣里が7月期テレ朝ドラマで出産後初主演 続く水谷家との「蜜月」で三山凌輝にも復活説

  3. 3

    萩本欽一〈24〉相方の坂上二郎さんとは「遊ばない・食事しない・夢を語らない」を徹底した事情

  4. 4

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ

  5. 5

    “キムタク効果”見込んだ吉野家の戦略は残念な結果に…ファンの間に沸き起こる「藤田ニコル復帰待望論」

  1. 6

    佐藤二朗騒動の余波!「福田組」の長澤まさみへの“ハラスメント”舞台挨拶の悪ノリ動画が再注目…女性視聴者は嫌悪

  2. 7

    ソフトバンク「佐々木麟太郎シフト」着々…同ポジションの中村晃引退、山川穂高二軍塩漬けが伏線

  3. 8

    「夫婦別姓刑事」とフジテレビの時代錯誤…“看板に偽りあり”のタイトルと「超・年の差婚」設定への嫌悪感

  4. 9

    萩本欽一〈25〉「車椅子でも絶対に明治座に出す」脳梗塞で左半身麻痺の坂上二郎さんを奮い立たせたひと言

  5. 10

    維新また猿芝居…国会空転トップ会談で定数削減法案に“白旗”も「今時点で取り下げない」と強がるワケ