著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「エヴァンズ家の娘」ヘザー・ヤング著 宇佐川晶子訳

公開日: 更新日:

 恋人との生活に疲れたジャスティーンは、2人の娘を連れて湖畔の別荘にやってくる。

 その別荘は大叔母ルーシーが残してくれたもので、彼女は64年前に妹の失踪、父親の自殺と相次いで悲劇が起きて以来、ずっとこの別荘で暮らしていた。

 ジャスティーンにとって行くところはここしかないのだ。恋人の家を飛び出してきたものの、他に行くところがない。しかし「ちょっと手を加えたら、この家は悪くないと思うわ」と言うジャスティーンに、「あたしはきらいだな。ものすごく寒いし、近くに住んでいる人もいないし」と長女のメラニーは不満顔だ。さらに、しばらくすると自分勝手な母親まで押しかけてくる。

 そういう波乱含みの新生活が続く一方で、64年前のルーシーの日記が挿入されていく。それは3人姉妹の日々だ。長女リリス、次女ルーシー、三女エミリー。ジャスティーンは、その長女リリスの孫娘である。表面は
牧歌的だが、なんだかルーシーの周囲には微妙な雰囲気がある。現在と過去、2つの物語が交互に語られ、おお、ネタばらしになりかねないのでこれ以上は書けない。ヒントは、ジャスティーンの長女メラニーと、過去編のルーシーがともに11歳であることだ。

 真実は物語の底にずっと隠されているが、それが爆発するラストが素晴らしい。秀逸な人物造形、見事な構成、鮮やかな描写力。圧巻のラストまで一気読みの傑作だ。

(早川書房 2100円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    国分太一の先行きはさらに険しくなった…「答え合わせ」連呼会見後、STARTO社がTOKIOとの年内契約終了発表

  2. 2

    大谷翔平も目を丸くした超豪華キャンプ施設の全貌…村上、岡本、今井にブルージェイズ入りのススメ

  3. 3

    100均のブロッコリーキーチャームが完売 「ラウール売れ」の愛らしさと審美眼

  4. 4

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  5. 5

    日本語ロックボーカルを力ずくで確立した功績はもっと語られるべき

  1. 6

    都玲華プロと“30歳差禁断愛”石井忍コーチの素性と評判…「2人の交際は有名」の証言も

  2. 7

    規制強化は待ったなし!政治家個人の「第2の財布」政党支部への企業献金は自民が9割、24億円超の仰天

  3. 8

    【伊東市長選告示ルポ】田久保前市長の第一声は異様な開き直り…“学歴詐称”「高卒なので」と直視せず

  4. 9

    AKB48が紅白で復活!“神7”不動人気の裏で気になる「まゆゆ」の行方…体調は回復したのか?

  5. 10

    ラウールが通う“試験ナシ”でも超ハイレベルな早稲田大の人間科学部eスクールとは?