「山の彼方の棲息者たち」加藤博二著

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 ある日、うっそうとした原始林で迷った著者は、屋根も周囲もクマザサでめぐらした1間ばかりの掘っ立て小屋の前に出た。意外なことに中には24、25であろう美女が住んでいた。蛇の化身かと思ったと話すと、「私には足首がござんしょう」と笑って答えた。山うなぎ(蛇の肉)の飯をもらい一晩一緒に泊まり、翌日、下山。炭焼き小屋の老爺にその話をすると、「あのべっぴんは山窩の女房だ」と。そして、泊まった小屋の立った場所は墓場で、下には亭主が埋まっていると話してくれた。

 ほかに、山深くやってくる薬売り、村の青年団を情夫にする山芸者、許されぬ恋を成就するため娘をさらい密林に逃げ込む若者たちのことなど、乗鞍岳のお花畑の番人をしていた森林官(山役人)の著者が、山奥暮らしの中で出会った人々の思い出を語った体験譚。

(河出書房新社 1450円+税)

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