「運命は踊る」

公開日: 更新日:

 あいにく本欄で紹介できなかったが、この夏、「ガザの美容室」というパレスチナの映画が公開された。パレスチナのガザ地区にある小さな美容室にやってきた女たちの、ほとんど会話から成る(しかし監督は双子の男兄弟の)傑作な映画である。それに対する、まるで返歌のようなイスラエル映画が来週末公開される。サミュエル・マオズ監督「運命は踊る」である。

 前作「レバノン」はイスラエル軍のレバノン侵攻を材にした戦争映画らしからざる戦争映画だったが、本作も戦争を背景にしながら戦闘ではなく、戦争と人間と人生の衝突を描く。息子の戦死公報を受け取った両親と、前線の検問所で間延びした日々を送る息子。父親役は来月末公開予定の「嘘はフィクサーのはじまり」でイスラエルの首相を演じたリオル・アシュケナージ。母親役はゴダールの「アワーミュージック」が記憶に残るサラ・アドラー。

 どちらも達者な中年俳優だが、注目したいのは映画の「画づくり」。かなり強引で奇矯な展開を不思議な作画術で引きこんでゆく。その感じが最近日本でも注目されるグラフィック・ノベルを連想させるのだ。

 グラフィック・ノベルは日本の漫画とアメコミを融合させたような“洋風劇画”。コマの画法はイラストやデッサンに近く、SFやミステリーなどいわゆる「サブジャンル文学」の趣がある。そういえばイスラエル映画にはレバノン侵攻作戦をアニメにした「戦場でワルツを」があるが、あれがまさに“動くグラフィック・ノベル”。本作でも息子はグラフィック・ノベル作家をめざしているらしい設定なのだ。

 そんなわけで今回はその世界で知られたアラン・ムーア原作の「ウォッチメン」(小学館集英社プロダクション 3400円+税)を紹介したい。本当は同じ原作者の「フロム・ヘル」がいいのだが、版元品切れなのが残念。

<生井英考>


【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  2. 2

    帝釈天から始まる「TOKYOタクシー」は「男はつらいよ」ファンが歩んだ歴史をかみしめる作品

  3. 3

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  4. 4

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  5. 5

    立川志らく、山里亮太、杉村太蔵が…テレビが高市首相をこぞってヨイショするイヤ~な時代

  1. 6

    (5)「名古屋-品川」開通は2040年代半ば…「大阪延伸」は今世紀絶望

  2. 7

    森七菜の出演作にハズレなし! 岡山天音「ひらやすみ」で《ダサめの美大生》好演&評価爆上がり

  3. 8

    小池都知事が定例会見で“都税収奪”にブチ切れた! 高市官邸とのバトル激化必至

  4. 9

    西武の生え抜き源田&外崎が崖っぷち…FA補強連発で「出番減少は避けられない」の見立て

  5. 10

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ