「『自己決定権』という罠」小松美彦著 聞き手・今野哲男

公開日: 更新日:

 04年4月に起こった「イラク邦人人質事件」では「自己責任論」が持ち出された。勝手に危険な場所へ行ったのだから、その責任を国家に押しつけず自分で取れと。同じ頃、脳死者からの臓器移植が合法化され、「安楽死・尊厳死」の問題も論議されていた。その際にキーとなるのが「自己決定権」だ。この言葉を名分として安易な脳死判定や安楽死を容認・推進する傾向を批判したのが04年に刊行された「自己決定権は幻想である」で、本書はその増補改訂版。

 旧著で著者の提起した問題は現在さらに深刻な様相を呈している。その例が今回増補された「相模原障害者殺傷事件」だ。「意思疎通を取れない人間を安楽死させる」のは正義だという論理のもと45人の知的障害者が殺傷されたこの事件は、社会に大きなショックを与えた。その底にはナチスの優生思想とつながる考えがあり、それが「自己決定権」による「尊厳死」と結びついて起きたものだと著者は分析する。

 旧著から現在までの「自己決定権」を巡る状況も収録。

(言視舎 2400円+税)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    国分太一との協議内容を“週刊誌にリーク”と言及…日本テレビ社長会見の波紋と、噴出した疑問の声

  5. 5

    衆院定数削減「1割」で自維合意のデタラメ…支持率“独り負け”で焦る維新は政局ごっこに躍起

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  3. 8

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 9

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  5. 10

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較