著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「赤い靴」大山淳子著著

公開日: 更新日:

 不思議な小説だ。物語がどこへ向かうのか、途中まではわからないのだ。だから、とても新鮮であった。

 7歳の誕生日の夜、母親が何者かに目の前で惨殺される。逃げ出した葵は、山中に住む老人に助けられ、犬と一緒に生活することになる。山中の生活とはいっても、老人はたくさんの本を所持しているので(その小屋は図書室と呼ばれている)、それらの書物から語学をはじめとしてあらゆることを学んでいく。そういう生活をなんと10年も続けていくのだ。

 葵が17歳になったとき、老人は病に倒れる。葵に出会う前、孫娘と一緒に山中で暮らしていたこと。その孫娘はずいぶん前に亡くなったが、死亡届を出していないこと。だから君は山を下りて、孫娘の戸籍を使いなさい。孫娘が生きていたと知れば家族も喜ぶだろう。そう言い残して老人は息を引き取る。こうして葵は山を下りていく。

 この先にどういう物語が待っているのかは本書で確認されたい。それをここに書いてしまっては読書の興をそいでしまうだろう。全体の構図が見渡せるのは4分の3のところ。そこでようやく納得するが、それまでは、何なんだこれは、と思いながら読み進んでいく。こういう読書も久々であった。

 老人の孫娘になりすますなんてことが簡単に出来るだろうか、ということを含めて、最後はやや強引だが、物語を貫く緊迫感にただただ圧倒されるのである。

(ポプラ社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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