「甘いもんでもおひとつ 藍千堂菓子噺」田牧大和著

公開日: 更新日:

 安土桃山時代、茶の湯の流行に伴い砂糖を使った茶菓子も登場したが、当時は高価で中国産の黒砂糖が主だったようだ。江戸に入り、8代将軍吉宗がサトウキビ栽培を奨励したことにより砂糖の国産化が始まる。中でも香川・徳島の和三盆は高級砂糖として高級和菓子に用いられた。また道明寺粉、白玉粉、寒天といった新素材が発明されたことで和菓子の世界は大きく発展する。本書はそんな時代を背景にした和菓子屋の物語。

【あらすじ】神田相生町に店を構える藍千堂は小さいながらも味の良さで評判の菓子司。店を回すのは、気弱だが心優しい菓子職人の兄・晴太郎としっかり者で商才に長けた弟・幸次郎、兄弟の父のもとで修業していた職人の茂市の3人。晴太郎らの父親は一代で百瀬屋を有名菓子司に育て上げ、兄弟もその後を継ぐべく励んでいた。

 だが、父が急逝すると突然、2代目主となった叔父は百瀬屋の味の要である讃岐産の「三盆白」を使うのをやめてしまった。反発した晴太郎は店を出る。叔父から娘の糸の婿にといわれていた幸次郎も兄の後を追い、独立していた茂市と一緒に藍千堂を立ち上げたのだ。 全6話、それぞれ柏餅、有平糖、柿入りういろう餅といった四季折々の菓子を点景としながら、藍千堂をなんとかつぶしてやろうとする叔父のくり返しの妨害工作を、知恵と機転、そして周囲の人たちの協力を得て切り抜けていく藍千堂の面々の活躍ぶりが描かれる。

【読みどころ】晴太郎らを目の敵にする叔父。父の反対を押し切って幸次郎と一緒になりたい糸。糸の思いを知りながら応えられない幸次郎。父の味を守ることに専心する晴太郎……それぞれの思いが複雑に交錯し、見事な人情絵巻となっている。 <石>

(文藝春秋 690円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か