「ニッポン 離島の祭り」箭内博行著

公開日: 更新日:

 昨年、日本の「来訪神 仮面・仮装の神々」がユネスコの無形文化遺産に登録されたとのニュースで、おなじみの「男鹿のナマハゲ」らとともに紹介された「悪石島のボゼ」(鹿児島県)や「宮古島のパーントゥ」(沖縄県)などの異形の神々に度肝を抜かれた方も多いのではなかろうか。

 各地が均一化するなか、離島にはまだまだこうした豊かな地域文化、習俗が残っている。

 本書は国内に400余島あるといわれる有人の島のうち、340もの島を訪ね歩いてきたという写真家が、島々の貴重な民俗文化の凝縮ともいえる祭りや年中行事を撮影、記録した写真集。

 表紙で読者をじっと見つめるのは、リゾートとして知られる与論島(鹿児島県)の「与論の十五夜踊」で演じられる大和風狂言「頼朝公」に登場する豪傑・朝伊奈の仮面。

 毎年、旧暦の3、8、10月の15日に与論城跡の地主神社に、2組の座による踊りが奉納される。

 1組目がこの狂言なのだが、踊りや獅子舞を奉納する2組目の踊り手たちは刺繍が施された美しいシュパと呼ばれる頭巾ですっぽりと頭部を覆っており、謎めいた儀式をほうふつとさせる。

 瀬戸内海の芸予諸島の大三島(愛媛県)の大山衹神社「御田植祭」で奉納される「一人角力」は、奇祭の呼び声が高い人気の神事。力士「一力山」が見えない稲の精霊を相手に真剣勝負を繰り広げ、精霊が勝つとその年は豊作になるとされる。一力山の不在で一時休止していたが、後継者が名乗り出て(実は市職員の一般人)、息を吹き返したという。

 奄美大島(鹿児島県)では旧暦8月最初の丙の日を「アラセツ(新節)」と呼び、その年の収穫感謝と翌年の豊穣の予祝を行う。稲作の盛んな龍郷町秋名集落ではふたつの伝統行事が行われ、そのひとつ「ショチョガマ」は、早朝、稲田を見下ろす丘に築かれたわらぶき小屋ショチョガマの屋根に男衆が乗り、これを揺さぶり倒す。次第に倒れるさまが、頭を垂れる稲穂に通じるという。もうひとつは夕刻の「平瀬マンカイ」。ノロ(神女)が海に突き出た神聖な神平瀬と呼ばれる岩の上に座し、神の国ネリヤカナヤ(ニライカナイ)に豊作と安寧を祈る。さらにノロは、別の岩に乗った祭人たちと互いに歌のやりとりをして稲魂を招き寄せる。

 他にも、島内5地区の「曳きだんじり」、「舁きだんじり」が水際を勇壮に疾駆する沼島(兵庫県)の「沼島八幡神社春祭り」や、名物の「キツネ踊り」をはじめ20種ほどの踊りが披露される姫島(大分県)の「姫島盆踊り」、国内の「山の神信仰」の最古形を残すといわれる蓋井島(山口県)の「山ノ神神事」など30余島の祭りを収録。

 もちろん、パーントゥやボゼ、下甑島(鹿児島県)の「トシドン」たちも登場する。

 著者は「離島ゆえに残され、継承されてきた祭りや習いの数々は、どこか懐かしいような、日本らしい普遍的な価値観を思い出させてくれる」という。

 島々の祭りが読者のDNAに刻みこまれた日本人の魂を刺激する写真集だ。

(グラフィック社 2200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  2. 2

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  3. 3

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  4. 4

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  5. 5

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  1. 6

    大炎上中の維新「国保逃れ」を猪瀬直樹議員まさかの“絶賛” 政界関係者が激怒!

  2. 7

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  3. 8

    維新の「終わりの始まり」…自民批判できず党勢拡大も困難で薄れる存在意義 吉村&藤田の二頭政治いつまで?

  4. 9

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?

  5. 10

    SKY-HI「未成年アイドルを深夜に呼び出し」報道の波紋 “芸能界を健全に”の崇高理念が完全ブーメラン