マニアたちが広大な墓場を再現

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 グローバル化の時代は「聖地巡礼」も世界現象。むろん、サンティアゴ巡礼やお遍路ではなく、人気映画のロケ地巡りのこと。その好例が現在都内公開中のドキュメンタリー「サッドヒルを掘り返せ」だ。

 かつてマカロニウエスタンといえばB級映画の代名詞だったが、いつしか本家のアメリカ西部劇をしのぐ人気。わけても「続・夕陽のガンマン」は「映画史の古典」とまであがめられている。だが、1966年にスペインで行われたロケ撮影の跡地は忘れられ、長年放置されたまま。それがネット時代にマニア情報が広まり、やがてヨーロッパ一円や北米から人が集まるようになった。かくて「50周年記念」の16年、手弁当のマニアたちが映画の舞台になったサッドヒルの広大な墓場をそっくり再現するという大事業を成し遂げたのだ。

 映画の公開時には生まれてもいなかったギレルモ・デ・オリベイラ監督はマニアに取材する一方、当時の撮影スタッフらに裏話を聞き、揚げ句、主役のC・イーストウッドからも談話を取るのに成功。しかし最も印象的なのは、マニアたちの情熱の真の対象がイーストウッド本人よりも映画の幻影(ファンタジー)であるのがわかるところだろう。現代の聖地巡礼とはつまり“疑似的な信仰”なのだ。

 ドゥルシラ・コーネル著「イーストウッドの男たち」(御茶の水書房 3200円+税)はアメリカの著名な左派フェミニストの法哲学者の著書。イーストウッドはファシスト呼ばわりされたこともある「男くささ」と「保守」の象徴である。

 しかし著者はイーストウッドの全監督作を丹念に解読し、彼の描く男たちの「男らしさ」が年を追うごとに微妙に組み替えられ、揺らぎを見せているという。いくらか深読みし過ぎとみえる部分もあるが、ファンやマニアの抱く幻想と彼自身のズレが示唆されているのが面白い。

 <生井英考>



【連載】シネマの本棚

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