多文化主義政策を敵視する男がキャンプ場を襲撃

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 昨秋、北欧に滞在して本業の社会学者の仕事をした。欧州の移民排斥運動とその影響の調査である。実態は聞きしに勝るもので、「理想の福祉国家」がいかに同質的な社会だけを暗黙の前提にしてきたか思い知らされたものだ。

 その経験を思い出すのが来週末封切りの映画「ウトヤ島、7月22日」。2011年夏、ノルウェーの首都オスロの政府庁舎が爆破され、郊外の保養地ウトヤ島のキャンプ場が乱射事件に見舞われた。

 犯人は自称「反・多文化主義革命」運動家の32歳。外交官の息子で典型的な北欧の中産階級。10代の頃は優等生で、イジメの被害者に優しい少年だったという。

 それがいつしか排外思想に傾斜し、事件当時、与党だった労働党が掲げる移民に寛容な多文化主義政策を敵視。

 その揚げ句、同党がウトヤで催した青少年キャンプを襲撃し、72分間にわたって計77人の教師や生徒らを殺害したのである。

 映画はこの模様をひとりの少女の目から描く。逃げまどう集団の一員としていかに恐怖にさらされたか、その模様が72分そのままをワンカットで再現して繰り広げられる。要するに観客自身が、プロの女優とも思えない少女と一緒に、テロ遭遇の一分一秒を追体験するのだ。

 映画は一切の説明をあえてしていないが、犯人は多文化主義への抗議を動機だとし、無抵抗で警察に逮捕されると、「世論を喚起するため」裁判を公開中継するよう主張したという。

 そこまで敵視される多文化主義とは果たして何なのか。ウィル・キムリッカ著「多文化主義のゆくえ」(法政大学出版局 4800円+税)はカナダの政治学者による多文化主義論。著者は国際的によく知られた多文化主義の代表的理論家だが、近年の排外思想の高まりを懸念し、丁寧な反論を試みている。

 <生井英考>

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