救いのない格差社会・香港の現実

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 香港映画といえばその昔から、荒唐無稽と俗受けが本領。香港ノワールなどを見てスタイリッシュと勘違いする若者もいるかもしれないが、あれは往年の日活映画と同じ通俗きわみのたまものだ。

 ところが、その香港映画に大きな変化を起こしたとされる映画が、今週末封切りの「誰がための日々」。

 主演は若手のショーン・ユーとベテランのエリック・ツァン。ともに「インファナル・アフェア」の人気俳優で典型的なノワール役者。ところがここでは、ショーンが介護疲れのうつ病から病気の母を誤殺した青年、エリックがその息子を介護する立場になった無学なトラック運転手の父親を演じる。要は救いのない格差社会・香港の、目を背けたくなるみじめな現実が投げ出されるのだ。

 しかしこの映画、いわゆる社会派の告発ものとは違う。

 監督のウォン・ジョンと脚本のフローレンス・チェンは香港政府肝いりの映画製作奨励金を得て、単純なリアリズムとも一線を画する社会の周縁部への物腰柔らかなまなざしを実現させた。その結果、製作資金わずか3000万円で興行収入が香港だけでも2億5000万円という予想外のヒットになったのである。

 香港は日本や台湾と並んで「辺境東アジア」とも呼ばれる。大陸中国に押しひしがれるような地勢にありながら、しぶとく個性を発揮する「辺境」すなわち周縁の地。しかしそこは14年の雨傘運動の敗北に苦しむ地でもある。

 福嶋亮大、張彧暋「辺境の思想 日本と香港から考える」(文藝春秋 1800円+税)は日本の文芸評論家と香港の社会学者の往復書簡集。今や米・中・欧ともに迷走の時代。つまり日香は「寄らば大樹」の中心を失いつつあるわけだが、だからこそ「辺境」は自由に浮遊し、兄弟のように対等につながって未来を目指せるはずだと説いている。 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

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