「マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!」

公開日: 更新日:

 若者が年寄りに心を開くのは、年寄りが若者だったころの話を聞くときだ。単なる昔話や自慢じゃない。目の前の年寄りが、自分と同じようなそそっかしく向こう見ずな若者だった時代の、心躍る冒険や歓喜をつい昨日のことのように語るとき、若者は引き込まれて一緒に声を上げるのである。

 そんな躍動感に満ちた“つい昨日”の物語が、新春早々封切りのドキュメンタリー「マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!」である。

「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれた60年代のイギリス文化。重厚な伝統に突き刺さるとがったモダニズムは、団塊世代にいまもファンが多いだろう。だが、この映画がいいのは、単なるスタイル自慢に堕してないところ。プロデューサーと映画の案内役を兼ねる老優マイケル・ケインは労働者階級のコックニーなまり丸出しの青二才だったし、ビートルズも大学進学など考えもつかない港町リバプールの兄ちゃん集団だった。ツイッギーに至っては伝統的な女性美など無縁の、横町の幼女のような貧弱さだったのだ。

 彼らは時代の風を受けてエリート中心の階級文化の壁に挑戦した。その威勢が、あの時代から丁寧に発掘された無数の映像を通して伝わる。ポール・マッカートニーやマリアンヌ・フェイスフルが昔話のインタビューで登場しているが、映像は昔のまま、老いた声だけが現在のもの。そのへんの演出も懐旧趣味を避けるのに役立っている。マッカートニーのリバプールなまりなど一聴に値する珍しさだ。

 60年代の英文学は「怒れる若者たち」の時代。わけてもアラン・シリトーは生粋の労働者階級で、時代が変わっても怒りを引っこめはしなかった。「長距離走者の孤独」(丸谷才一ほか訳 新潮社 490円)が代表作だが、本当はデビュー作「土曜の夜と日曜の朝」(版元品切れ)を推したい。<生井英考>





【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

  2. 2
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3
    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  4. 4
    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

  5. 5
    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

  1. 6
    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

  2. 7
    巨人・秋広が今季初昇格も阿部監督「全く期待していない」…のんきな性格がアダで早くも背水の陣

    巨人・秋広が今季初昇格も阿部監督「全く期待していない」…のんきな性格がアダで早くも背水の陣

  3. 8
    阪神・岡田監督が密かに温めていた「藤浪獲得プラン」が消滅していた…

    阪神・岡田監督が密かに温めていた「藤浪獲得プラン」が消滅していた…

  4. 9
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

  5. 10
    人間性やスタンスが如実に表れたMLB挑戦時の「西海岸かつ小規模都市」へのこだわり

    人間性やスタンスが如実に表れたMLB挑戦時の「西海岸かつ小規模都市」へのこだわり