著者のコラム一覧
堀井憲一郎

1958年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。徹底的な調査をベースにコラムをまとめる手法で人気を博し、週刊誌ほかテレビ・ラジオでも活躍。著書に「若者殺しの時代」「かつて誰も調べなかった100の謎」「1971年の悪霊」など多数。

「平将門と天慶の乱」乃至政彦著

公開日: 更新日:

 日本中世史ブームといわれる中での、平将門の新書である。ただ将門は、中世の人ではない。平安時代でも前半の人だ。将門が死んで、30年してから紫式部が生まれている。

 平将門の生涯が描かれる。原資料にあたり、先行研究を漏らさずチェックしてある。研究書としては当然だが、当書には研究書ぽい堅苦しさがない。文献を踏まえた上で生き生きとした将門を描こうとしたのだろう、勇躍たる青年が現前してくる。

 なぜ将門が関東の地において反乱を起こすに至ったのか、その風景がビビッドに描かれる。それは仕方ないな、いやそこで頑張れ、あ、気をつけろ、と小説のように読み進んでしまった。著者が調べに調べた上で、将門にとても近づいたからだろう。

 将門は生まれ年もわからない。位階に叙されていないことから、当書では、関東での同族の争いに巻き込まれたのが二十歳のころと推定、争いに飛び込む若者の姿を描く。二十歳と聞いた瞬間に、匂い立つような青年が躍動する関東の地が見えた気がした。

 前半生の将門は、好感の持てる青年である。関東を制圧していく将門は、土地の者に強く愛されていたのだ。

 それから10年、武力によって関東を制圧し、中央政府の支配から脱しようとする。そのあたりから少し謎がかる。でも当書は将門を突き放さず、そこにいる人物として添い続ける。

 2カ月だけだが日本国内に別の国を打ち立てたところに、漢の劉邦のような侠気とロマンが強く漂う。彼の行動がその後の日本のいろんなコトを決めてしまったのだ。

 ちなみに将門の本拠は茨城・千葉県であり、東京や神田とは関係がない。しかし神田明神の祭神とされているのはなぜか、その謎も最後に解かれる。将門と同じ音になる「唱門」師たちの墓の跡ではないかという推察にまた、慄えるように得心した。

 これを読めば、リアルな将門に会えるのだ。二度読みしたくなる新書も珍しい。(講談社 920円+税)

【連載】ホリケン調査隊が行く ちゃんと調べてある本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘