著者のコラム一覧
堀井憲一郎

1958年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。徹底的な調査をベースにコラムをまとめる手法で人気を博し、週刊誌ほかテレビ・ラジオでも活躍。著書に「若者殺しの時代」「かつて誰も調べなかった100の謎」「1971年の悪霊」など多数。

「サピエンス異変」ヴァイバー・クリガン=リード著、水谷淳ほか訳

公開日: 更新日:

 広大なスケールの一冊である。800万年前の人類の祖先の「足」についての考察が重ねられる。われわれ人類は、サバンナでの採集狩猟生活が長く、そのときにいまの体形が形成されたという話から始まる。

 人類の歴史を語りながら、この准教授(40代後半の少し太った英国の准教授らしい)の興味は「なぜおれは腰痛になってしまったのだ」という一点に集中しているように思われる。サバンナで人類が休むときは、しゃがみこんでいた、と、その姿勢を図解してくれている。しかし日本ではこれは「ヤンキー座り」と言って、まだそういう座り方は完全に過去のものになったわけではない。これが人類にとって理想的な座り方のようだ。

「椅子」に関する考察が興味深い。200万年にわたって人類は椅子など使っていなかったという。椅子が使われるのは産業革命以降である。学校教育では「椅子に座っていること」を徹底強制される。人類史から見ればごくごく最近になって人類は椅子に座れるようになったのだ。ホメロスの戯曲や聖書には椅子は登場せず、シェークスピアでは椅子が登場する作品(リア王)と椅子が出ない作品(ハムレット)があり、そして産業革命後に書かれたディケンズの「荒涼館」では187回にわたって椅子に言及しているそうだ。

 こういう数字を出すところが、すごい。ぜったい本人が数えた本当の数字だと思う。

 わが国では、家庭内で椅子が広まったのはごく最近である。サザエさん家では(昭和の中ごろがモデル)椅子に座って食事はしていない。だから明治生まれの老人たちは、畳に座りたがっていた。いまは、法事でも座敷の落語会でも、パイプ椅子を用意して、老人には椅子に座ってもらおうとする。変化はごく最近に訪れたのだ。

 非常に煩雑で、また遠大なことまで深く調べた一冊であるが、「仕事中ずっと座り続けているのは危険である」ということを強く主張した一冊とも読める。なかなか爽快である。(飛鳥新社 1806円+税)

【連載】ホリケン調査隊が行く ちゃんと調べてある本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  2. 2

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  3. 3

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 4

    「べらぼう」大河歴代ワースト2位ほぼ確定も…蔦重演じ切った横浜流星には“その後”というジンクスあり

  5. 5

    100均のブロッコリーキーチャームが完売 「ラウール売れ」の愛らしさと審美眼

  1. 6

    「台湾有事」発言から1カ月、中国軍機が空自機にレーダー照射…高市首相の“場当たり”に外交・防衛官僚が苦悶

  2. 7

    高市首相の台湾有事発言は意図的だった? 元経産官僚が1年以上前に指摘「恐ろしい予言」がSNSで話題

  3. 8

    AKB48が紅白で復活!“神7”不動人気の裏で気になる「まゆゆ」の行方…体調は回復したのか?

  4. 9

    大谷翔平も目を丸くした超豪華キャンプ施設の全貌…村上、岡本、今井にブルージェイズ入りのススメ

  5. 10

    高市政権の「極右化」止まらず…維新が参政党に急接近、さらなる右旋回の“ブースト役”に