「ザ・プッシュ」トミー・コールドウェル著 堀内瑛司訳

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 米カリフォルニア州ヨセミテ渓谷にエル・キャピタンという花こう岩の一枚岩がある。谷底から900メートル以上もあるほぼ垂直の壁で、中でも「ドーン・ウォール」というルートはフリークライミング(体を引き上げるための道具に頼らずに手と足だけを使って壁を登る)で登ることは不可能と思われていた。7回目の挑戦で見事登攀に成功したのが著者で、本書はその自伝である。

 幼い頃から、父親から山登りの手ほどきを受けていた著者は、学校ではあまり目立つ存在ではなかったが、クライミングの才能に目覚め、自信を深める。世界の名峰を巡るうちにベスという恋人にして登山仲間を得る。このまま順調にいくかと思っていた矢先、2人はキルギスで現地のイスラム組織の人質となり心に深い傷を受ける。それでも結婚にこぎ着けるが、フリークライマーとして致命的な左手人さし指を切断する事故に遭い、さらに妻の浮気が原因で離婚……。

 新たな愛を得た著者は苦難を乗り越えて、足かけ7年の準備をして相棒とともにドーン・ウォールの登攀に成功する。栄光と挫折に満ちた波瀾万丈の人生が赤裸々につづられている。

(白水社 3500円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

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