著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「台湾博覧会1935スタンプコレクション」 陳柔縉著、中村加代子訳

公開日: 更新日:

 1930年ごろ、台湾ではスタンプがブームであった。そのピークが台湾博覧会が行われた1935年。その特徴は、郵便と鉄道にとどまらず、レストラン、映画館、写真館、書店、文具店、印章店、薬局、靴屋、布屋、喫茶店、旅館、市場、温泉宿など、ありとあらゆる商店が記念スタンプを作ったことだ。

 その85年前のスタンプを著者が発掘してまとめたのが本書だ。その商店がどこにあったのか、経営者はどういう人物なのか、商売は順調だったのかなど、当時の新聞、雑誌、回顧録などを克明に調べ上げ、紹介しているのが興味深い。

 たとえば、台北の新高旅館のスタンプを紹介する項には、1931年の「心温まる窃盗事件」が紹介されている。大村という17歳の少年が新高旅館に泊まったが、隣部屋の客の手提げから十数円の現金を盗んで逃走するも、紆余曲折あったのちに逮捕。新高旅館の鍵山女将は、大村が7歳で父を、15歳で母を亡くし、台北の伯父を頼ってきたことを知ると被害届を取り下げ、自分のところに置いて成人するまで面倒を見たという。おそらく当時の新聞に載っていたいきさつと思われるが、こういうドラマがあちこちにあるのだ。著者はそれを丹念に拾い上げている。

 さらに、当時の町並みの写真、地図などが次々に挿入されているので(これが圧巻だ)、85年前の台湾が立体的に浮かび上がる。さまざまな読み方ができる書だ。

(東京堂出版 3600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性