著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ストーンサークルの殺人」M・W・クレイヴン著、東野さやか訳

公開日: 更新日:

 ブラッドショーがホテルのバーで酔っぱらいに絡まれるシーンがある。ブラッドショーは窓のそばの席に座り、ノートPCでゲームをしていた。そこに男たちが絡んできて、1人が彼女の口にビールの瓶を押しつける。中身が彼女のTシャツにこぼれると男たちは笑いだす。ポーを呼びにきたバーテンダーが「警察を呼びましょうか」と言うが、「おれにまかせてくれ」とポーは彼らに近寄っていく。このあとがいい。

「ブラッドショーは見た目こそ小柄で弱々しく見えるが――鋼鉄の心の持ち主だ。泣いてもいないし、大声で助けを呼んでもいない。男3人に敢然と立ち向かっている」

 ブラッドショーは16歳でオックスフォード大学の学位を取ったほどの天才的頭脳の持ち主だが、一般常識に疎く、極端な人見知り。国家犯罪対策庁のポーと一緒に仕事をするようになって、少しずつ外部と接触を持つようになったという経緯がある。見た目は弱々しいが、鋼鉄の心の持ち主なのだ。そういうヒロインがここにいる。

 次々に焼死体が発見される事件を、刑事ポーと分析官ブラッドショーがコンビを組んで解決していくシリーズの第1作だが、この異色のヒロインの魅力があふれているのがいい。さらに、構成が群を抜いているのでどんどん物語に引き込まれていく。まことに楽しみなシリーズの開幕といっていい。

 2019年の英国推理作家協会賞最優秀長編賞の受賞作だ。

 (早川書房 1180円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  3. 3

    「おこめ券」迫られる軌道修正…自治体首長から強烈批判、鈴木農相の地元山形も「NO」突き付け

  4. 4

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった

  5. 5

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  1. 6

    12月でも被害・出没続々…クマが冬眠できない事情と、する必要がなくなった理由

  2. 7

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  4. 9

    黄川田地方創生相が高市政権の“弱点”に急浮上…予算委でグダグダ答弁連発、突如ニヤつく超KYぶり

  5. 10

    2025年のヒロイン今田美桜&河合優実の「あんぱん」人気コンビに暗雲…来年の活躍危惧の見通しも